デザイナー/DJとしてロンドンを拠点に活動するスズキユウリ氏による海外のイベントレポート企画第3弾。今回は、9月にオーストリア、リンツ市を舞台に開催された「アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)」を皆さんにご紹介したい。
リンツ市にあるアルスエレクトロニカ・センター。
今回、私の作品「The Physical Value of Sound」がインタラクティブ・アート部門で入賞し、その受賞展示とセレモニーの参加の為、9月にオーストリアのリンツで行われた世界最大のテクノロジーアートの祭典「アルスエレクトロニカ」に参加することになった。2004年、まだ私が明和電機で工員として働いていた頃、アシスタントとして参加し、2005年には友人を訪ねにここを訪れた。そのため、今回アーティストとして戻ってきたことには、個人的に感慨深いものがあった。
アルスエレクトロニカの期間中、リンツは世界中のメディア・アーティスト、科学者、キュレーター、研究者でごった返す。フェスティバル自体は大きく分けて、セレモニー、シンポジウム、テーマ展示が行われる「ブルックナーハウス」、テーマ展示と共に常設展が行われる「アルスエレクトロニカ・センター」、そして「OKセンター」の3会場で構成される。アルスエレクトロニカは、1979年に完全なインディペンデント・フェスティバルとして小規模に発足したが、OKセンターはまだアルスエレクトロニカ自体が確立されていない頃から15年以上も発表の場として機能している。この現代美術館では新進気鋭のスイス人アーティスト、Christoph Büchelの初の大規模な展覧会をはじめ、常に興味深い展示が開催されていて、今回、私が展示の場を設けることになったのもこのOKセンターである。

アルスの今年のロゴ。2009年のテーマは「HUMAN NATURE」。

アルスエレクトロニカ受賞作品展が行われたOKセンター。
「Cyber Arts」と名付けられたアルスエレクトロニカ受賞作品展には、インタラクティブ・アート、ハイブリッドアート、デジタルミュージック、コンピュータ・アニメーション部門から選抜された計20作品が展示された。ここの展示スタッフ、キュレーションは他の現代美術館に比べ本当に優秀で、展示準備は実にスムーズに進められた。
展示の準備をする優秀なスタッフのみなさん。
「Cyber Arts」展より、Graham Harwood, Matsuko Yokokojiによる「Tantalum Memorial」。ファシスト時代に使われていた電話交換器を使い、コンゴの混戦時代のラジオ放送と電話ターミナルをつなぎ合わせて聞く作品。写真は、メンテナンスをするグラハムさん。
Thomas TraxlerとKatharina Mischerによる「The Idea Of A Tree」。家具を作るプロセスを木の生長にみたて、糸まき構造でイス、ランプシェードを作る作品。備え付けのソーラーパネルによって太陽の光を電気エネルギーに変え、動力パワーにする。
「The Idea Of A Tree」の完成品。
トーマスとカタリーナは、オランダの有名校、デザイン・アカデミー・アイントホーフェンを昨年卒業したばかりで、昨年発表したこの作品が話題を呼び、数々のデザイン・フェスティバルで展示している。11月には「100%デザイン」の一環で来日するとのこと。同世代として楽しみなデザイナーである。
そして僕、スズキユウリによる「The Physical Value of Sound」。
スズキユウリによる「The Physical Value of Sound」。
今年はアルスエレクトロニカ30周年、そしてリンツは今年のヨーロッパ文化都市ということで、ブルックナーハウスでは、30年周年を祝う展示が開催されるなど、例年よりも盛大な感触があった。

アルスエレストロニカ第一回目となった1979年のポスター。
歴代の受賞者に多い日本人アーティストを対象に企画されたのは、アルスエレクトロニカ・センターで開催された「デバイスアート」展。明和電機、クワクボリョウタ、八谷和彦等、日本を代表するテクニカルアーティストたちが日本独自のフォーマットである「デバイスアート」を展示した。
明和電機のノックミュージック。
クワクボリョウタのデバイスアート。
日本人アーティスト言えば、今回のオープニングでは、moonlinxの記事も記憶に新しい真鍋大度さんによるパフォーマンスが行われた。残念ながら今年は天候があまり良くなかった為、パフォーマンスが延期になってしまったが、真鍋さんのモノを作る姿勢、プロフェッショナルなプレゼンテーション、技術は本当に尊敬に値する。
アルスセンターの地下で行われていた、ヒューマノイドの研究で有名な石黒浩教授によるジェミノイドの展示。
アルスセンターの隣にあるコンテナで展示されていたのは、スイスのアーティストグループ「etoy」によるプロジェクト・プレゼンテーション。「未来のお墓」をテーマに、ピクセルひとつひとつのコンクリートの中には位牌が埋葬されているとのこと。彼らは、エキソニモをはじめ多くの日本人アーティストと交流があるらしい。
スイスのetoyによる「未来のお墓」をテーマにしたプロジェクト。

今回OKセンターにて展示された「Corpora in Si(gh)te」。トルコ、スイス、日本それぞれの研究者、デザイナーによるコラボレーション・プロジェクト。
アルスエレクトロニカは、毎年、世界の研究機関や教育機関の展示も行っている。今年の展示はマサチューセッツ工科大学、石井浩教授率いるメディアラボ。タンジブル研究の第一人者である彼の研究室は、テクノロジーを生活に違和感無く取り入られるかを熟考されたものが多くあった。
会場内の様子。
YouTubeでお馴染みの「DrawDio」のプレゼンテーション。電導体の抵抗可変を応用した楽器「ペン」で線を書けば書くほど音程が下がる。シンプルな構造だが、そのインタラクションはとても効率的で音楽的であった。今回は筆を使った展示。
最後に、アルスのプログラム外で特筆すべき展覧会が行われていたので紹介しようと思う。ドナウ川沿いにあるLentos現代美術館で行われている「see this sound」展は、ビジュアルと音の関係をテーマに膨大なリサーチと素晴らしいキュレーションによって作られた展覧会。ノーマン・マクラーレンのフィルムに直接サウンドトラックを書き込む所からはじまり、ナム・ジュン・パイクのフラクサスでの活動、クリスチャン・マークレイ、カールステン・ニコライ、デレク・ジャーマン、それしてスロッビング・グリッスル、ファクトリー、ロンドン・ニューウェーブまで、このコンテクストに合わせて収集された作品は、見ていてワクワクもし、衝撃をも受けた。
ここでふと思ったのが、現代アートとメディア・アートの違い。ジャンルって一体何なのだろう?どんなアートにしろ、作家の情熱や思い入れは変わらないもの。しかし、これまで作品を展示してきて感じたのは、作り込めば作り込む程、作品の価値が下がるということだ。私の作品は全て手作りだが、アウトプットは工業製品のクオリティーにできるよう細心の注意を払っている。しかしながら、その作品の見た目が作品自体の価値を下げてしまう。工業製品は大量生産されて価格が低くなり店頭に並ぶ。そこで鑑賞者は錯覚し、ついこれが個人の作った作品ということを忘れてしまい、粗雑に扱う事が増えてくる。よく店頭に並ぶ玩具や製品見本が壊れているのがこれにあたる。Lentos現代美術館で扱われている物はアートとしての付加価値が入ってくるため、鑑賞者も作品をリスペクトする。この違いはいったい何なのだろうか?そして、メディア・アート作品はアート市場では売れない。このジレンマを改めて感じた滞在であった。
アルスエレクトロニカ/Ars Electronica
1979年に始まったメディアアートでは世界最大のイベント。毎年、オーストリアのリンツ市で開催される。会期中は、世界中から著名な科学者やアーティスト達を迎えて、シンポジウム、展覧会、パフォーマンス、イベントなどを行っている。昨年は、世界25カ国から484名以上の講演者とアーティストが参加した。
スズキユウリ
1980年生まれ、東京都出身。明和電機のアシスタントワークを経て、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のデザイン・プロダクト学科を卒業。ダレル・ビショップに指事の下、音と音楽が人に与える影響をデザインを探る。現在、ロンドンを拠点にフリーランス・デザイナーとして、イベントのコンテントデザイン、ワークショップデザインを行っている。同時に電子音楽に傾倒。世界最古の電子楽器「テルミン」奏者として数々のイベントに出演。イギリスとドイツのレコードレーベルより2枚の自身の音源を発表している。2009年4月に行われたmoonlinxの「Dreams」プロジェクトにも参加した。













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