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芸術と社会をつなげた現代美術家、ヨーゼフ・ボイスを振り返る

Art
11/02, 2009

KEYWORD :
ヨーゼフ・ボイス
毛利嘉孝
水戸芸術館
藤浩志
高橋瑞木

安齊重男「ヨーゼフ・ボイス [6月2日、東京芸術大学体育館]」1984年

20世紀後半の美術を代表するヨーゼフ・ボイスは、展覧会会場で観客と民主主義について議論を交わしたり、創造性によって社会を形成するという「社会彫刻」概念を生み出すなど、インパクトを与える表現と思想をもって芸術の新たな可能性を広げ、多くの人々に影響を与えたアーティストの一人だ。現在、水戸芸術館では、1984年に来日したボイスを振り返る展覧会「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」が開催されている。芸術においても、社会全体においても、大きな変化の渦中である今だからこそ、今日はボイスの影響を再考し、彼の活動とこの展覧会についてを皆さんにご紹介したい。


ヨーゼフ・ボイスは、1921年ドイツ北西部の町、クレーフェルトに生まれ、1960年代から美術家として活動を開始。戦時中、飛行機墜落事故に遭い、墜落地の遊牧民に脂肪とフェルトで体を温められ一命を取り留めた経験から、脂肪やフェルトを素材とした彫刻作品を制作することが多かった。

ヨーゼフ・ボイス「フェルトスーツ」 1970年 フォーエバー現代美術館蔵 (c)BILD-KUNST,Bonn&APG-Japan/JAA,Tokyo,2009

1960年代前半には、moonlinxのSpecial Issueに登場したオノ・ヨーコ氏も参加していた前衛芸術運動「フルクサス」に参加し、徐々にパフォーマンスを表現形態としていった。70年代には、教授を務める芸術アカデミーにおいて、入学できる学生数の制限に反対し、自分自身で「創造性と学際的研究のための自由国際大学(FIU)」を設立。従来の大学制度や美術教育制度とは一線を画す様々な学問を横断するような内容で教育を行った。また、西ドイツ発祥のエコロジー運動を掲げた政党、「緑の党」から立候補するなど、この頃から思想家、活動家としての色が強まっていく。これらの活動は、一見芸術とは関係ないと思えるが、ボイスにとっては、絵画や彫刻などの「モノ」を作ることだけが芸術ではなかった。主体性と創造性を持って行われた行為は日常的なものであれ、すべて芸術だったのだ。

そのボイスが訴えたことで有名な概念「社会彫刻」とは、社会に生きる一人一人が創造性を用いて、自分で考え、自分で決定し、自分で行動し、社会を作り上げていくべきだという考え。ボイスは、東西が分裂していたドイツの状況下で、体制やお金ではなく、人々の創造性こそが社会を形成するとした。創造性とは、単に芸術作品を作るときだけに使われるものではなく、誰もが持っている能力であるからこそ、「誰もが芸術家である」という言葉も残した。

社会学者であり、東京芸術大学准教授の毛利嘉孝さんは、ボイスの思想を「晩年のボイスが考えていたのは、日常的な「労働」という営為をいかに「芸術」として捉えなおすということだったのではないか。それはそもそも彼が提唱した「社会彫刻」のひとつの完成型であり、「誰もが芸術家である」という有名なテーゼの実現でもあった。けれども80年代以降の産業構造の急激な変化はボイスのユートピアを追い越してしまった。今では誰でも(売れない)芸術家のように生きられることを強いられている。現在労働市場で最も求められているのは創造力やコミュニケーション力である。ボイスの夢は実現したけれど、皮肉なことにそれはユートピアではなかった。資本主義のしたたかさを考えるために今一度、80年代のボイスを思い起こすことが必要である。」と語る。

ヨーゼフ・ボイス「芸術=資本」 1979年 栃木県立美術館蔵 (c)BILD-KUNST,Bonn&APG-Japan/JAA,Tokyo,2009

その社会彫刻の集大成とも呼べる作品が1982年のドイツの国際展「ドクメンタ7」で発表された「7000本の樫の木」と呼ばれるプロジェクト。これは、ドクメンタが開催される都市、カッセルの街中に7000本の樫の木を植えるという緑化運動だ。このプロジェクトは寄付や植樹活動を通して、多くの市民の協力を得ながら5年にも及び行われ、それはmoonlinxでも度々紹介している地域コミュニティで展開される「アートプロジェクト」のはしりとも言われている。「7000本の樫の木」をシンボルに、ボイスは様々な場所で社会彫刻概念を直接的に訴えた。そして、1984年、ついに日本の地をも踏むことになった。

現在、日本の各地でアートプロジェクトを行うアーティストの藤浩志さんは、ボイスの来日当時、京都の美大に通う学生で、東京までパフォーマンスを見に来たという。藤さんは、リアルタイムでボイスから受けた影響をこのように語る。「社会彫刻という言葉や樫の木のプロジェクトの存在には、大きなインパクトがありました。アーティストという立場で社会の活動に絡みながら、変化を起こしてゆくという考えは、日本国内で地域社会にどういうイメージを作っていくのかという僕の活動のベースの大きなきっかけになっている。パフォーマンスを見て、意味をしっかり理解できてなくても、どこかで意識をもらったような気がします。恥ずかしい話だけど、来日した時にもらったサインは今でも大切に持っています(笑)」

安齊重男「ヨーゼフ・ボイス [6月2日、東京芸術大学体育館]」1984年

展覧会やパフォーマンス、東京芸大での学生との対話集会やレクチャーなどを行いながらの8日間という短い滞在だったが、ボイスの来日は各新聞の文化面に取り上げられ、日本のアート界に賛否両論を巻き起こした。水戸芸術館での展覧会「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」では、最近発見された来日時の模様を映したドキュメンタリー映像を公開しているが、この映像のディレクターを務めたのは、国際的に活躍する写真家の畠山直哉氏だ。また、日本の美術館やコレクターの持つ250点以上の作品、来日時交流のあった美術家や評論家のビデオインタビューが公開されるほか、国際シンポジウムやパフォーマンスなどの関連企画などを通して、日本との関係を読み解く内容となっている。

最後に、この展覧会を7年前から企画していた水戸芸術館の高橋瑞木さんは、展覧会の見どころをこう話してくれた。

展覧会のポスター

「来日から1年半後に亡くなったのですが、ボイスは8日間という短い滞在期間に、心臓に不安を抱えながらも精力的にレクチャーやパフォーマンスを展開しました。ボイスが日本人とどう接し、当時の日本人が彼をどう受け止めたのかを克明に記録している映像は本展の目玉です。生涯を芸術に捧げた一人の人間が私たちに残したものを映像や作品で感じてもらいたい。本当の資本は貨幣ではなく人間の創造力だと言うボイスのメッセージは、金融危機を迎え、アートバブルも終焉した今こそ、リアリティが増していると感じます。優れた芸術家は予言者でもあると言われますが、ボイスはまさにその典型かもしれません。」

ボイスが考えだした一人一人が創造性を持って社会を作るべきだという「社会彫刻」は、大量な情報に埋もれ、経済状況をはじめとする様々な問題を抱える現代を予測したかのようにも思える。皆さんもぜひこの機会に、ボイスの活動、思想に触れ、その声に耳を傾けてみてはいかがだろう。

ヨーゼフ・ボイス/Joseph Beuys
1921年〜1986年。ドイツの現代美術家・思想家・教育者・社会活動家。脂肪やフェルト、石といった天然の素材を用いた立体作品や、巨大インスタレーションを制作したほか、パフォーマンスや、学生、政治家などと活発な公開議論も行った。「人間は誰でも芸術家である」と語り、人間ひとりひとりが創造性をもって参与することでより良い社会をつくりあげる「社会彫刻」という概念を提唱し、晩年は「緑の党」の設立やエコロジー運動に関わった。1984年に西武美術館の招聘で来日し、展覧会の他に対話集会、パフォーマンスをおこない、後進のアーティストや美術関係者に影響を与えた。


「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」

会期:
2009年10月31日(土)〜2010年1月24日(日)

会場:
水戸芸術館現代美術ギャラリー

住所:
茨城県水戸市五軒町1-6-8

開館時間:
9:30〜18:00(祝日以外の月曜日、年末年始休館)

入場料:
一般800円

ウェブサイト:
http://www.arttowermito.or.jp/

国際シンポジウム「21世紀にボイスを召還せよ!」

日時:
2009年11月15日(日)13:00~18:30

会場:
水戸芸術館コンサートホールATM


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