映画「Exit Through the Gift Shop」のオープニングより。バンクシーと思われる人物の姿はシルエットとして映し出され、その声もデジタル加工されている…。
先月21日から31日までアメリカ・ユタ州のパークシティで開催されたインディペンデント映画の祭典「サンダンス映画祭2010」。今年はスパイク・ジョーンズの最新短編作品や、ダコタ・ファニングとクリステン・スチュワートが共演した70'sロックバンドの伝記映画「ランナウェイズ」などのプレミア上映が話題となったが、実はそれらを上回るほどメディアに騒がれた作品がある。それが、世界中に熱狂的なファンを持つ正体不明のストリートアーティスト、バンクシー(Banksy)による初監督の長編ドキュメンタリー「Exit Through the Gift Shop」だ。
この作品のワールドプレミアとなった1月24日、会場のライブラリー・センター・シアターでは、446席分のチケットを求めて開演の数時間前から長蛇の列ができた。俳優でミュージシャンのジャレッド・レトや、米人気ドラマ「アントラージュ」の主役を演じるエイドリアン・グレニアーも姿を現した場内は、「映画祭というよりも、まるで流行りのクラブのようだった」とメディアに報じられるほど熱気に包まれていたという。
普段はスキーリゾートして知られているアメリカ・ユタ州のパークシティ。サンダンス映画祭の会期中は、作品を買い付けにやってきた配給会社の担当者と映画関係者の商談の様子も多く見受けられた。
通常、監督本人が壇上に立ち、観客に挨拶をするワールドプレミア。当然のごとくバンクシーは会場に現れることはなかったが(観客のふりをして見ているのでは?という憶測も飛んだそう)、その代わりとしてメッセージで欠席を謝罪しながらも、「くれぐれもストーリーの結末をTwitterでつぶやかないように…」と観客に注意を促した。
映画「Exit Through the Gift Shop」より。少なくとも映画祭前には会場周辺を訪れていたと思われるバンクシーは、パークシティとソルトレイクシティにいくつかのステンシル作品を残していった。
「ノッティングヒルの恋人」でヒュー・グラントの同居人役を演じていたウェールズ出身の俳優、リス・エヴァンスがナレーションを担当する1時間29分の長編作品は、ティエリー・ゲッタ(テリー)というフランス人がどのようにしてストリートアートに取り憑かれていったかという話から始まった。
ー1999年、LAで古着屋を経営していたテリーは、旅先のフランスで自分の従兄弟がストリート・アーティストの「スペース・インベーダー」だと知る。元々、常にビデオカメラを手にしていた彼は、それをきっかけに従兄弟の作品を撮り始め、LAに戻ってからも「Obey Giant」で知られるシェパード・フェアリーをはじめ、様々なストリートアーティスト達と交流を持ち、撮影を続ける。普段は警戒心の強い彼らもテリーはストリートアートのドキュメンタリーを制作中だと思い込み、その存在を受け入れる。しかし、そんな運の良いテリーでも唯一カメラに収めることの出来ない人物がいた。それが正体不明の「バンクシー」だ。ところが、あることをきっかけにバンクシーと接点を持つことが出来たテリーは、バンクシーに完成した映像を見せるはめに…。
映画「Exit Through the Gift Shop」のより。
バンクシーの姿をどうにかして撮影しようと奮闘するフランス人の姿を描いたこの作品には、ストリートアートに興味がある人であればすぐに分かる人物が次々と登場する。そして、実は主人公のテリーも自らストリートアーティストとして活動し、バンクシー以来の大物と称されているMr. Brainwash(MBW)だ。
「Exit Through the Gift Shop」の予告編。見覚えのある冒頭のロゴをよく見ると、「パラノイド・ピクチャーズ」「最高作…の予告編の葉…」「カンヌ…は、訪れるには良い場所だ…」など、バンクシーらしい細工がしてある。
忘れてはいけないのが、この作品が“ドキュメンタリー映画”であること。そう、それがこの作品の大きな鍵でもある。そして、もうひとつの鍵は、これがバンクシーについての作品ではなく、“バンクシーの監督作品”というところだ。これ以上書くとネタバレしてしまいそうなので、その全貌は日本公開を待ってぜひ映画館で確かめてみて欲しい。
「Exit Through the Gift Shop」は、2010年3月5日よりイギリスでの公開が決定している。
(Text:Chiemi Isozaki)
バンクシー/BANKSY
イギリスを拠点とする謎のストリート・アーティスト。主にステンシルを使った作品をゲリラ的に描くことで知られている。過去には、「狩りに行く古代人」と題してショッピングカートを押す古代人が描かれた石をこっそりと大英博物館に展示したり、パリス・ヒルトンのデビューアルバムの偽物を勝手に店頭に陳列するなどして、メディアを騒がせた。しかし、イスラエルとパレスチナを分離する壁に平和の願いを込めた作品を残すなどの活動も行っており、ストリートアート・ファンだけでなく、多くの人から絶大な支持を得ている。2009年夏にイギリスのブリストルで開催された大規模な個展「Banksy versus Bristol Museum」には、のべ30万人もの人が来場した。













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