写真 新津保建秀
先月盛況のうちに終了し、moonlinxでもレポートを掲載した「ATAK NIGHT4」。そのオーガナイザーであり、レーベル「ATAK」を主宰する渋谷慶一郎氏に本ツアーの感想と現在の音楽シーンについて話を伺った。若手アーティストへのアドバイスも含んだ必読のインタビューだ。
—まず、ヨーロッパから日本にかけて行われたATAK NIGHT4、全ての日程を終えられて感想はいかがですか?
渋谷 非常に満足したツアーになりました。同時に、現状、これ以上テクノロジーと音楽との隣接点を提示するコンサートをやることはできないんじゃないかと。ただ、今回課題に感じたのは、25歳以下の若い来場者が減っていていることです。例えば、2年前のATAK NIGHT3のツアーではキックが4つ打っていない曲でも、グルーヴを探して踊る人が多かったんですが、そういう傾向は減ってきている気がしました。僕自身のライブはコンピュータに関して一区切りという感じだったのですが、その時に完成版で終わると戻れなくなってしまうので、余地を残して終えたという感じです。
—今回8チャンネルというマルチチャンネルを利用したライブでしたね。
渋谷 それにははっきりした理由があって、刀根康尚さんの作品が7チャンネルを絶対条件としていたんですね。でも、ATAK NIGHTは最初から6チャンネルを採用していて、その後も最低4チャンネルは確保してきました。ステージ両サイドのLとRの2チャンネルのスピーカーを通常のセッティングとしているのはあくまでも最低限ということであって、現在ではもはやこの方法が絶対的とは言えないでしょう。例えば、ハウスやテクノが気持ちいいというのは、周期的なキックがあるからです。つまり、LとRというステレオと相性がいいわけだけど、多チャンネルになるとまた変わってきます。また、例えば波の音が非周期的なのに気持ちいいのは、2チャンネルのステレオから出ているからではなく、発音源が三次元的で立体音響のようなものだからですよね。逆に、波の音のCDとかが気持ち悪いのはそれがステレオだからです(笑)。僕は多チャンネルやサラウンドの信奉者ではないですが、キックが4つ打っているような音楽の限界が語られてから随分経っているとはいえ、LRのステレオで複雑なリズムを鳴らしても、複雑に感じるだけだと思うんです。複雑なものがフィジカルに気持ちいいと感じるのは、そこに何らかの変換があるわけで、その方が僕は面白いと思っているんです。それにはそのための装置が必要ですよね。
ATAK NIGHT4でMCを行う渋谷氏(左)と、フルクサスのメンバーでもあった刀根康尚氏(右)。
—その結論に至るきっかけは何だったのでしょうか?
渋谷 2002年にATAKを始める以前は、エレクトロニカやサウンドアートが流行っていました。でも、疑問に思っていたのは、なぜこんな悪い音質でライブをやっているのかということで、3000円や4000円の入場料を取ってこれだったら絶対に人は来なくなるだろうと思っていたら、本当に来なくなっちゃった。だから自分がやる時は違うやり方にしよう、と思いますよね。
—その見方は以前からですか?
渋谷 そうですね。僕は現代音楽を勉強していましたが、適当なところが嫌いでした。弾けないようなことを譜面に書くから、弾く側も難しいし、弾けないという前提でだらだらするんですよね。それが複雑で難解なものに聴こえちゃう、というレトリックが多い。サウンドアートが新鮮だったのは、その逆で、「ピ」とか「パチッ」といった単純な音そのものを相当磨き込んで作っているところでした。だから「ピ」という音がショボかったら、「はい、駄目」ってことになる。「ピ」が格好良かったらそれでOK。すごくはっきりした世界ですよね。現代音楽の分野にいたから構造とかじゃなくて、この「ピ」をどう格好良くするかが面白いと思ったわけです。だからこそ、その特殊性をどう伝えればいいかをよく考えないで、イベントやライブを行うというのは本当にナンセンスだと思うんです。西洋音楽の歴史的にみれば、「ピ」とか「パチッ」に生理的にフォーカスするのはすごく例外的なことです。だから、それを極端に拡大すると面白いんじゃないかと思っていました。
—ところで、ATAK NIGHT自体は各アーティストの演奏ごとにブレイクだったり転換があるわけでなく、ノンストップですよね。これは訳があるのですか?
渋谷 その「サービスのしなさ」はATAKのイベントの特色かもしれませんね。僕は、イベントの合間の転換にBGMやDJが入るのは格好悪いと感じているんです(笑)。ただ、お客さんにとっては、トイレに行ったり、ドリンクを買ったりできますが、それはそういうイベントに任せればいい。何かのアンチテーゼというより、そういうサービスをしないイベントがあってもいいんじゃないかという程度のノリだったんです。でも、そのうちサービスをしないまま、規模だけが大きくなってしまった、っていう(苦笑)。
—でも、それが一つのスタイルとして求心力を持っていったから今があるんですよね。
渋谷 そうかもしれないけど、そこはそれほど意識的ではないです。東京だけでいうなら、エッジなものを好む人は5000人もいかないと思うんですよ。世界でみてもそれほど大した人数ではない。最初はそこに届けばいいんだくらいの感じで始めていましたね。
「ATAK NIGHT3」のライブ映像を収めた「ATAK011 LIVE DVD ATAK NIGHT3」
—レーベルとしても、その5000人にどう届けていくのかを常に意識されているんですか?
渋谷 ええ、意識してきました。ただ、最近はわからなくなってきたんです。今まではCDが何枚売れるか、ある程度想定できた。でも、iTunes Music Storeなどのダウンロードサービスをはじめとして色々な面で音楽の価値が変わってきていますし、今は過度期だと思うんです。現在はCDと高音質配信に加え、携帯の着メロなど色々なフォーマットで発売していますよね。1〜2年後の音楽の聴かれ方は、PCのダウンロードと携帯用が先に発売され、そこである程度売れたら、じゃあ記念にCDでも出そうというのが普通になるんじゃないでしょうか。
—ATAK自体の設立は2002年ですよね。エレクトロニカブームも終息し、インディペンデントレーベルバブルも終わった後でした。この時期の設立とその後の運営は正直大変だったのではないですか?
渋谷 というより、僕は自分のやりたいことをいかに成立、持続させるかに神経を注いできた気がします。時流に乗るということを意識する余裕はなかったというのが正直なところです。また、いずれそれは終わるものなので、あまり関心がないです。僕は周囲が見えているようで見えていないので(笑)。
—持続すること、継続していくこと。非常に重要ですよね。
渋谷 継続するからこそ、判断できることや体験できることは沢山あるんです。ただ、圧倒的な悪条件の中で継続していくことが美しい、というのは違うと思います。人間は怠惰な生き物で、色々な意味で反応がないと続けられない。ある種の前衛運動の挫折があったとすれば、人が聴くとか聴かないということも含んだ大きな意味での経済的な挫折だったと思います。すごく大勢の人が聴くことは難しいけど、成立する程度には聴かれていないとその中で色々試せなくなるし、遊べなくなる。そこは非常に意識的です。そういう意味では、今は聴いてくれる層がもっと広がった方が面白いと思っています。あと、音楽の場合は特に僕がやっているようなジャンルで若手が不足しています。音楽が音楽だけで成立する時代は終わっているから、もう少し音楽以外のジャンルと相互に浸透するようにならないといけないでしょう。
7月15日発売の「ATAK013 ligne i8u+Tomas Phillips」(左)と現時点での最新作品「ATAK012 OLEVA Ø Mika Vainio」(右)。
—その不足している若いアーティストにアドバイスがあれば教えて下さい。
渋谷 もしアーティストやクリエイターとしてやっていきたいのであれば、急がば回れで、これでけなされるならそれで構わない、という作品を作ることと、それを続けることだけが重要だと思います。プレゼンテーションの仕方や戦略ばかり気にする人がいますが、それは例えて言えば、デートでどこに行くか程度の問題でしかない。もちろん作品の伝播力には色々な条件がありますが、そこに注意が行き過ぎてしまって記号性に依存したつまらない作品が色々なジャンルで増えてるように思います。でも僕自身そこに興味がないので、勝手に作ってくれとしか言いようがないです。やりたいことを継続するのが大変な状況は、昔からそんなに変わってない。僕もATAKを始めた時は、ホストクラブで働こうかと思ったくらい大変でしたから(笑)。
—なるほど(笑)。では最後に渋谷さんの今後の活動予定ですが、6月16日にロックバンドの「相対性理論」のライブイベントに出演されますね。あのような意外な形での出演もあるのですか?
渋谷 僕も最初オファーが来た時は彼らのことを知らなかったので驚いたんですが、メンバーが僕の音楽をずっと聴いてくれていたらしいんです。僕が違うフィールドの人達に届ける努力をそれほど意識していなかったこともあって、出演させて頂くことにしました。ただ、コンピュータで今出来ることはATAK NIGHT4でやり尽くしたので、ピアノソロでなら、というのが条件だったのですが。9月にピアノ・ソロのアルバムをリリースすることになっていて、今まさにそのミックスとマスタリングをやっているところなので、完全にピアノモードになっているのと、ピアノ・ソロの音楽は恐らく今までの僕の音楽よりも少し間口が広い。なので、エレクトロニクスの方と行ったり来たりすることによる相乗効果が生まれたらいいなという気持ちもあります。一般的に、僕はライブのオファーを断るイメージがあるようですけど、サウンドシステムやスケジュールに問題なければ基本的には出演したいと思っているんですよ(笑)。
渋谷慶一郎/Keiichiro Shibuya
音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。
2002年ATAK設立。音楽レーベルとして国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリースするだけではなく、デザイン、ネットワークテクノロジー、映像など多様なクリエーターを擁し、精力的な活動を展開。
2006年に発表したサウンド・インスタレーション作品「filmachine」とそのCDバージョン「ATAK010 filmachine phonics」を発表。2008年には毎年ベルリンで開催されている世界最大のテクノロジーアートのフェスティバルであるトランスメディアーレで「filmachine」の発表、及びコンサートを行う。
2009年にはヨーロッパ数カ国から日本に渡るATAK NIGHT4ツアーを行い、初のピアノ・ソロによるソロアルバムの発表も決定している。
http://atak.jp














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