「日々の音色」という楽曲をご存じだろうか?クラムボンのミトがプロデュースする3ピース・バンド、SOURによる楽曲のMVが、YouTubeの再生回数150万回を超えるほどの注目を集めている。ファン自身がウェブカメラで撮影した映像をつなげて制作されたこのMVを手掛けたのが、川村真司氏だ。現在はニューヨークを拠点に活躍する川村氏に、「日々の音色」の制作背景や海外のクリエイティブ・シーンについて伺った。
川村氏が手掛けたSOURのMV「日々の音色」(co-director: Hal Kirkland & ナカムラマギコ & 中村将良)。SOURは、hoshijima(g,vo)、Sohey(b)、高橋ケ無(ds)による3ピース・バンド。プロデューサーはクラムボンのミト。
―川村さんは、日本の広告代理店でCMプランナーとしてのキャリアを積まれた後、ロンドン、オランダ、ニューヨークと海外に活動の場を広げられていますね。それはなぜですか?
川村 日本の広告代理店ではCMプランナーというと、どうしてもCMというメディアの中での仕事になってしまうことが多く、それに違和感を覚えていました。もともと僕はアイディアありきで、そこからウェブやテレビ、プリント、イベントなどそのアイディアにあったメディアに表現を広げていくことが正しいと考えていたので、物足りなくなってしまったのです。そんなときに、外資系の広告代理店であるBBH Tokyoの立ち上げがあるという話を聞きました。BBH Tokyoは今は無くなってしまいましたが、そこから2年間、日本にいながら海外のクリエイティブ・ディレクターとのやりとりを学びました。その後、ロンドンのBBHで半年間ほど活動したのですが、規模が大きくてフットワークが重かったので、もっと「少人数でクリエイティブなことができるところに行きたい」と思い辞表を出して、その足でオランダのアムステルダムにあるクリエイティブ・エージェンシー180に「作品を見てください」と訪ねて行って。そして今はまたニューヨークのBBHに移籍したところです。

川村真司氏
―アムステルダムの180に移籍される際、どのように自分をアピールされたのですか?
川村 ロンドンでウェブ上にポートフォリオを作って、アムステルダム行きのフライトに乗る前にメールを出しました。ホテルに着いてメールを開いたら「明日、来てみる?」という話になって。もともと僕はジュニアハイスクールまでアメリカにいたので言葉が問題じゃなかったのもラッキーでしたし、それよりもやはり「クリエイターはまず作品ありき」と改めて感じました。僕の作品の目指していたものが、どれも比較的ユニバーサルかつシンプルな表現だったということが良かったのだと思います。言葉に頼らないで、どの国の人が見ても面白い作品であることが自分の中の基準としてあるんです。なるべく余計なものを排除してアイディアをむき出しにすると、コミュニケーションのスピードがすごく早い。虹の本もそうですが、そういったスピード感のあるものを好んで作っていたので、どの国でも感覚的に受け入れてもらえたのだと思います。
―虹の本とおっしゃっていた「RAINBOW IN YOUR HAND」や、3ピース・バンド、SOURの「半月」「日々の音色」などのMVは、企業としての仕事ではなく個人の作品として手掛けられたのですよね?
川村 そうです。それまでクライアントの課題に応えるばかりの仕事をしていたので、社会に出て働き始めて5年目ぐらいに自分で課題を見つける感覚が鈍っているのではないかと思ってしまったんですね。そのリハビリも兼ねて会社の外での作品制作をそこから始めました。そのときにちょうど高校の同級生だったSOURのhoshijima君から「半月」のMVの話が来ました。そこでMVの一般的な手法も知らない僕に何ができるだろうと思って考えたのが「影絵」でした。それもただの影絵ではなくて、むしろ合成を駆使して今までになかった造形を作ってみようと。モーション・グラフィックやセルアニメなどでは僕よりうまい人がいるから、出来上がったものが埋もれてしまうと思ったんですね。それに、影というフラットなものだけれど、そこに人の存在があるような質感もいいなと。コンセプトが決まってから2日で撮影して2週間くらいで編集しました。それと同時に作っていたのが「RAINBOW IN YOUR HAND」です。
2007年にリリースされたSOURのデビュー・アルバム「rainbow under the over pass」に収録の「半月」のMV(co-director: 佐藤匡)。広告批評の2007ミュージックビデオベストテンにも選出された。
―「RAINBOW IN YOUR HAND」は、本をパラパラ漫画のようにめくると、残像で虹がふわっと広がる素敵な本ですね。
川村 もともとパラパラ漫画が好きで、メディアとしても面白いと思っていたんです。そしてあるとき、アニメーションを作るのではなく、めくったときの残像で虹を作れたら面白いと思い立ち、Adobe Illustratorで作って、プリントアウトを切ったり張ったりしてみたらイメージ通りのものができました。これはアートとしてどこかで展示されるよりも、プロダクトとして世の中に存在する方が面白い作品だと思い、知り合いの印刷会社に連絡をして「僕のお小遣いでできる範囲で…(笑)」とお願いして300部くらい刷りました。
―刷ってしまったのですか!?
川村 はい。届いて「さてどうしようかな」と(笑)。デザイン系に力を入れている書店に片っ端から置いてくれませんかと連絡をしたところ、ユトレヒトの江口(宏志)さんが興味を持ってくださって。300部が完売した後は、製造から販売までお願いすることになりました。また、YouTubeに動画をアップしたところ、いろいろなブログに紹介されて海外のショップに置いてもらえるようにもなりました。今までは、大きなキャンペーンをしないと多くの人には届かなかったけれど、今はどんな小さなアイディアでさえ誰にでもアクセスできる。それはすごく健康的だし、安心してモノが作れる時代になったと思いましたね。
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―バイラルで広がったと言えば、ウェブカメラで撮影したSOURの「日々の音色」は、2009年10月の時点でYouTubeの再生回数150万回を超えています。Googleのキーワード検索数もまさにウナギ登りでした。これはなぜだと思いますか?

Googleトレンドで見た「日々の音色」検索数の遷移。2009円7月あたりからグングン急上昇しているのが分かる
川村 時代に合っていたんだと思います。スカイプなどのビデオチャットがカジュアルなコミュニケーションの手段になり、一般層にも広がりましたからね。そしてクラウドソーシングなど一般の人々を通してアイディアを作り上げるといったような、クリエイティブな人と人のつなぎ方が模索されはじめている時期。その時代感がうまく表現とハマったのだと思います。
—実際、どのように制作されたのですか?
川村 まず、「日々の音色」の歌詞から、「バラバラの個性」「つながり」といったイメージがコンセプトとして浮かびました。それからバンドが日本にいて、僕ら制作チームはニューヨークにいたので直接撮影はできない。予算も限られているので、撮影機材もそんなにいいものは使えない。じゃあどうするかということで、ファンにウェブカムで撮った映像を送ってもらってつないだらどうだろうというコンセプトが浮かびました。僕らが日本と連絡をするときはスカイプだし、「今の人ってそういう形でつながっているよね」と。そして完成系とほぼ同じものを、制作チームだけで作って何度もテストしました。その映像を参加してくれるファンの人に送って、それを参考に踊ってもらいました。映像をいじっているように思われるかもしれませんが、なるべくタイム・ストレッチなど編集のギミックを使っていないことにこだわりました。それがこのビデオの手作りな質感と完成度を生んでいるのだと思います。
―離れた場所にいる人が、映像の中でハートを作ったり雨を表現したり…出演している人が本当に楽しんでいるのが伝わってきます。
川村 会ったことの無い人とつながれるという人間的な喜びや、一方でそれが技術的な発達で可能になっていることへの興味など、いろいろとタイムリーなコンセプトでした。でもそれにもまして、おっしゃるように本当にSOURの音楽や、クリエイティビティが好きだという人々の想いが現れて、この映像の強さを生んでいると思います。
―今後も、しばらくはニューヨークで活動される予定ですか?
川村 まだ分からないですが、ニューヨークという街は面白いしチャンスも多いので、2、3年くらいは腰を据えて活動できたらと思います。作品としてはプロダクトなど、まだあまり経験したことのないメディアで、新しいものを作っていけたらと思っています。
川村真司/Masashi Kawamura
慶應義塾大学佐藤雅彦研究室で学んだのち、博報堂でCMプランナーとして活動。その後、BBH Tokyoの立ち上げに参画し、オランダはアムステルダムのクリエイティブ・エージェンシー180に移籍。現在はニューヨークのBBHを拠点に、SOURのMVをはじめ個人としての制作も精力的に展開している。
http://www.masa-ka.com/













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