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「シンガーと即興音楽」デイヴィッド・シルヴィアンインタビュー

Music
10/29, 2009

KEYWORD :
SACHIKO M
デイヴィッド・シルビアン
デレク・ベイリー
マナフォン
即興音楽
大友良英

70年代後半から1982年に解散するまで、世界的に活躍したイギリスのニューウェーブバンド、ジャパン。バンド解散後も、ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)や坂本龍一をはじめとしたアーティストとのコラボレーションで、精力的にソロ活動を展開してきたのがボーカルのデイヴィッド・シルヴィアンだ。その彼が、2009年9月23日にニューアルバム「マナフォン」をリリースした。この作品のクレジットには、エヴァン・パーカー、ジョン・ティルバリー、クリスチャン・フェネス、大友良英、中村としまる、SACHIKO Mなどカッティング・エッジなジャンルでのビッグネームが並んでいる。近年はエレクトロニカ・ミュージック・シーンへの接近もあり、その周辺からの知名度も高い彼に、今回の作品とその実験的な音楽とのコラボレーションについて、話を伺った。


—今回新作のタイトル「マナフォン」の意味について教えてください。

シルヴィアン 今回のテーマのモチーフとなっている、詩人でもあり牧師でもあったR・S・トーマスという人が住んでいた、ウェールズ地方にある小さな村の名、それが「マナフォン(Manafon)」です。R・S・トーマスは、矛盾する二つの性質をもった人間だったのですが、それと同様に今回の作品には2つの相反するテーマを持たせています。一つは「詩的な想像力」で、これは彼がそこで3冊の詩を書き上げたことに由来します。またもう一つのテーマである「失望・幻滅」は、彼が抱いていた、牧師という職業に対する疑念や失望から来ています。

—失望や幻滅のような、ある意味ネガティブな表現にもあなたは惹かれるのでしょうか?

シルヴィアン 作品を制作していたころは、わたし自身がちょうど失望や幻滅を経験していた時でもあり、それに向き合っていかなくてはならない時でした。ただ、その反面、詩的な想像力というものを表現するために、すごく創造的な精神状態にもなっていました。この2つは表裏一体です。失望や幻滅には、クリエイティビティを常に更新していく素晴らしさがあります。

—今回の作品は、すごく想像力を刺激させられる曲が多く、まさに詩的な想像力というキーワードはぴったりだと思いました。このようにリスナーの想像力を刺激するような意図はあったのでしょうか?

シルヴィアン 作品を作る時には、特にそういうことは意識していません。ただ、わたしたちアーティストは、言葉で表せないような本能や直感をもとに作品にしなければいけません。そして、重要なことは、その本能や直感がフレッシュな状態のままで具体的な形にしなければならないということなのです。もし、それができれば、聞き手に想像力を訴えかけることができると思っています。ですから、それは目的ではなくあくまで副産物。ですが、今回あなたがそのように言うということは、作品として成功したのだと思います。

最新作「マナフォン」。すべてのCDプレーヤーで再生可能な高音質CDフォーマット「HM-CD」が採用されている。ここにもシルビアンの楽曲制作だけではない、音へのこだわりが垣間見える。

—今回は、大友良英さんのような先進的なアーティストから、前作から引き続き参加されているクリスチャン・フェネスさんまで、多彩なアーティストが参加されていますね。

シルヴィアン わたしはシンガー・ソングライターです。言ってみれば即興音楽の世界とは真逆の世界にいるわけです。それらをハイブリッドにつなげ、ジャンルとジャンルがぶつかり合うことによって新しいものが作られるという意味では、今回新しいフォーマットの音楽を生み出したと感じています。

—日本のアーティストも数多く参加していますが、共演されていかがでしたか?

シルヴィアン 本当に思った通りというか、予想通りの素晴らしい体験でした。即興のミュージシャンとやると決めた時点で、すごく考えたことは、どのミュージシャンと共演するかということでした。また、どういう効果が欲しいかだけでなく、彼らが持っているものをどうわたしの曲に貢献してくれるように導くかも考えましたね。とはいえ、彼らの持っている音楽性や美意識など知った上で選んで演奏してもらっているので、わたしが求める効果は比較的生まれやすかったです。特に大友良英さん、SACHIKO Mさん、秋山徹次さんとのレコーディングは、一日で終わらせることができました。全部で6テイクを取りましたが、5テイク目で「あ、これだな」というしっくりした感覚がありました。同時にアコースティックギターでオーバーダビングしていくことが一番良いと分かったんです。この時の収録音源が使われたのは、「The Greatist Living Englishman」という曲なんですが、これはわたしにとってアルバムの中で一番大切な曲になりました。

—そのミュージシャン達との曲づくりについてお聞きします。まず、楽曲の骨組みを作ってから、ミュージシャンに即興をお願いしたのでしょうか?

シルヴィアン いいえ。セッションに臨んで、そこから楽曲を生みだしていきました。

—アバンギャルドな即興の場合、大抵一つの楽曲のなかで、暴力的な構成があったかと思えば、かたや極端に静かだったり、その差が激しいイメージもあります。ですが、今回は非常にうまく静かな繊細な音楽にまとめられていますよね。その辺は意識されたのでしょうか?

シルヴィアン ええ。わたしの過去の作品にも今回のようなアプローチはあったので、その経験を生かすことで、今回は特に集中し気を配りましたね。

フリー・ジャズの巨匠デレク・ベイリーをゲストに迎えた前作「ブレミッシュ」。

—バンドの時からソロとして活動されている現在に至るまでの音楽の作り方は変わってきていますか?

シルヴィアン もちろん。人間は進化しなければいけないので、わたしは音楽づくりに関しても新しいアプローチをして作り方を変えてきました。ソロになってからは、カンのホルガー・チューカイですとか、キング・クリムゾンのロバート・フリップをはじめとした、多数のアーティストとコラボレーションしてきました。このように、あらゆるアーティストと共演するには、その時々で違うものが要求されます。そういう意味でもあらゆる音楽に携わってきたので、その辺は自分の音楽の作り方に影響を及ぼしているのではないでしょうか。あと、転機になったのは、デレク・ベイリーと共演した前作の「ブレミッシュ」。そこでいわゆる「マナフォン」にもつながる即興音楽とコラボレーションができたことは、わたしにとても大きな影響を与えました。正直、自分の音楽の作り方が今後どうなるのか、全く検討がつかないんですが、ただ、「ブレミッシュ」が教えてくれたことは、何か新しいものを発見したときには、大変大きな成長があるということ。失敗するかもしれないですが、その成長はすごく自分も活気づけられます。

—あなたのようにキャリアの長い方が、ごく最近成長できたというのはすごい驚きなんですけども。

シルヴィアン ははは。新しいものをやっていきたいとか成長したいという気持ちが常にあります。実は、「ブレミッシュ」に関して言えば、ちょっと忙しい時期でもあって、6週間でアルバムを完成させなければいけなかったんです。そうなると、自分の中で短期間で作り上げるための方法を考えなければいけないですよね。それが即興的なレコーディング手法だったんです。そんな今までと全く違うレコーディングの方法を行ったことは、とてもエキサイティングでした。本当にたまたま陥った状況の中で知った手法でしたが、自分の引き出しの中に「こんなのがあったんだ」というような突然の発見と言った方が良いでしょうか。でも、それがすごく面白いと思って、今回の作品も同じような手法を使うことにしたんです。

—なるほど。音楽業界全体としてのお話を聞きます。業界が転換期をむかえている中で、若手のミュージシャンやクリエイターたちはどう活動していけばいいのか迷っている部分もあります。この激動の中でどう生き残っていけばいいか、ヒントをいただけないでしょうか。

シルヴィアン アドバイスは難しいですね。いい方法があれば、もうみんな実行していると思うのでね(苦笑)。現在、音楽業界で起こっていることは、いずれ映画をはじめとして、全ての業界で起きてくることです。ですから、音楽業界が先取りしている状態なので、その先に何があるのかというのは分かりません。海賊版などによってクリエイターに印税が入らなくなって結局辞めてしまうのか、あるいは、イリーガルなところで入手できるクオリティの低いものがさらに低くなる中で、最終的にはファンが、「やっぱり本当に質のいいものは、買うしかないよね」と気づいてくれるように自ら努力していくのか。本当になんとも言えない難しい状況ですね。

—ありがとうございます。あなたは、コンスタントに作品を作られています。その作り続けられる原動力は何なのか、教えて下さい。

シルヴィアン 本当に、人生の経験を積み重ねていくなかで得たものを表現したい、という欲求が原動力ですね。やはり、創造するということはコミュニケーションの一種であるし、それを通じていろいろと経験する中で、表現していきたいというのが常にあります。ただ、必ず源となるのは、自分の中に内在しているもの。その内在しているものを、経験を積むことで、その都度、新しい形として表現したいという衝動がでてきます。

デイヴィッド・シルヴィアン/David Sylvian

1974年、弟のスティーヴ・ジャンセン、ミック・カーンとともにバンド、JAPANを結成。78年にデビューし、82年に解散するまで6枚のアルバムを残す。バンド解散後、ソロに転向し、ソロ・アルバムはもとより、坂本龍一やロバート・フリップ等とのコラボレーションなど数多くの作品を発表している。2003年、ジャンセンとともに自身のレーベル、サマディサウンドを立ち上げ、デレク・ベイリーやクリチャン・フェネスらをゲストに迎えた意欲作「ブレミッシュ」を発表する。09年、キース・ロウや大友良英、中村としまるらが参加した6年ぶりの最新作、「マナフォン」を発表。あくなき音の探究を続ける孤高の音楽家である。

http://www.davidsylvian.com/


ニューアルバム「マナフォン

発売日:
2009年9月23日

価格:
2,730円(税込み)

レーベル:
Pヴァイン・レコード


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