アメリカから始まったアシッドハウスがイギリスの音楽シーンにも火をつけた80年代後期。工業都市、シェフィールドの小さなレコードショップが、1989年に当時常連だったDJ達のオリジナル・トラックをリリースし、彼らのインディペンデント・レコードレーベルとしての活動が始まった。翌年7月、そのレーベルから発表されたシングル、LFOの「LFO」がメジャーなアーティスト達と並んで英国のナショナル・チャート12位にランクイン。シングルの大ヒットと共に、ダンスミュージックの新時代が幕を開けた。あれから20年、彼らはインディペンデントというスタイルを変えることなく、しかし確実に進化しながら才能溢れるアーティストを次々と輩出し、今も音楽シーンの第一線を走り続けている。今月21日、幕張メッセで開催される20周年記念ツアー「WARP20」で来日するWARPのレーベル・オーナー、スティーブ・ベケット氏に、成功の秘訣や、今だからこそ知りたいレーベルの役割、そしてWARPの新たな挑戦についてお話を伺った。
—20周年おめでとうございます。まず最初に、この20年はあなたにとってどのようなものでしたか?
ベケット あっという間だったね。WARPのボックスセットのイントロにも書いたけれど、これまでリリースされたレコードのジャケットを見ていたら、本当にあっという間だったと思ったし、世に送り出した作品を並べて見て誇りに思ったよ。

Forgemasters「Track With No Name」。89年8月7日に発売された記念すべきWARP初のトラック。

90年に発売され、同年7月に英国チャート12位にランキングされた、LFOの「LFO」。

99年の「Windowlicker」は、ファンによる人気投票で一位を獲得。楽曲の素晴らしさもビジュアルの奇妙さも頂点に達したAphex Twinの代表作。

Prefuse73の1stアルバム「Vocal Studies & Uprock Narratives」(01年)。エレクトロニカにヒップホップを取り入れた、歴史に残る一枚。
—20年間で最高の思い出をひとつ教えて頂けますか?
ベケット 前回東京でイベントをやった時にDJをしていたらレコードが止まっちゃって、ダンスフロアにいた観客の一人が僕に靴をくれたんだ。それが面白くて会場を煽ったら、沢山の人が靴を寄付してくれて、DJブースが皆の靴でいっぱいになった。今回のイベントは規模も大きいから、もっと沢山の靴が貰えることを期待してるよ(笑)。
—WARPはこれまで沢山の素晴らしい才能を発掘し、彼らを一流のアーティストに育て上げてきました。それは決して容易なことではないと思うのですが、素晴らしいアーティストを育てる秘訣とは何でしょうか?
ベケット 彼らを守ってあげながら、面倒をみてあげること。良いレーベルなら、アーティストをせかすのではなく、長い時間をかけてゆっくり才能を伸ばしてあげることが大切だと分かっているはずだよ。例え最初は利益を生むことができなくても、一定の期間は経済的に支援し、いよいよという時になったら、アートワークやミュージックビデオなど彼らのあらゆる情報をクリアにして正しい方向に向けて発信する。その時に、初めて彼らと契約した時の情熱も忘れないことだ。

若手アーティスの中でも人気の高いバトルズ。ライブに定評のある彼らは、2005年にWARPと契約した。

今年WARPが大プッシュする若干23歳のハドソン・モホークは、10月にファーストアルバムをリリースしたばかり。
—最近では、アーティストが自宅で録音したトラックをリスナーに直接販売し、インターネット上でのセルフプロモーションすら可能になりました。音楽シーンにとってこれは間違いなく重要な転換期だと思いますが、そのような状況下で今のレーベルの役割とは一体何でしょうか?また、アーティストはどうあるべきでしょう?
ベケット 僕がレーベルを始めた頃から、レーベルの役割は変わっていない。もし変わったものがあるとすれば、それは音楽メディアだろう。殆どのアーティストは、ディストリビューションや税金のことを自分でやりたいなんて思っちゃいないよ。どういう訳か世の中の人はレーベルがアーティストが“出来ないこと”をやっていると思っているようだけど、僕達がやっているのは、彼らが“やりたくないこと”なんだ。レーベルとアーティストの関係は、家を改装する時に業者に頼んだり、車が壊れた時に修理屋にもっていくのと同じ。アーティスト側だって、自分たちでやりたいやつは自分たちでやっている。自分たちがレーベルから得るサービスと取り分が妥当だと思わないのなら、一緒にやらなきゃいいんだよ。
—現在、日本の音楽業界では楽曲の売り上げよりもライブでの収益が増加しています。その結果、アルバムにライブ向きの楽曲を増やすようアーティストに促すレーベルもあると聞きます。このような不可解な状況についてどう思われますか?
ベケット もしそれが本当だとしたら、全くナンセンスだね。僕達は決してそんなことはしないし、そんなことをしている人達も僕の回りには見当たらないよ。
—WARPは、ダンスフロアを意識した作品から突然「Artificial intelligence」のような“聞くため”のアルバムを発表し新しいムーブメントを創り出したり、映像プロダクションの設立、音楽配信サイトの立ち上げなど、常に何かにチャレンジしてきました。そしてその挑戦はいつも成功しているように思えるのですが、挑戦を成功へと導く秘訣は何でしょうか?
ベケット 物事の中心ばかりを見るのではなく、この先何がやってくるのかを見極めること。それは決してはっきりとした形で見ることはできないけれど、ちょっとした手がかりや兆候があるものなんだ。そのなかに自分が興味や情熱を感じられるものが見てとれたら、経済的、人材的にどのようにそれをやっていくかをしっかり考える。特に人材は重要なポイントだ。これだと思う人に100%任せること。サポートをするにしても、彼らのやり方でやらせることさ。
2004年にスタートしたWARPの音楽ダウンロードサイト「Bleep」は、当時大きな挑戦とも思えたが、今ではリスナーの間でもすっかり定着した様子。このサイトを利用した場合、通常のダウンロードサイトよりもアーティストの収益が大きいこともファンに支持される理由のひとつかもしれない。
—WARPとして次は一体何に挑戦される予定ですか?
ベケット 現在進行中の大きなプロジェクトは、エアラインかな。つい最近、飛行機を一機購入したばかりなんだ。ロンドンからベルリンまでの短距離フライトを運行してみて、もし上手くいきそうであれば、あと7機を買ってヨーロッパの格安航空会社と競えるかどうか試してみるつもりだよ。今はパイロットの資格を持っているスタッフが一人しかいないけれど、他のスタッフもパイロット養成学校に通い始めたから、そのうち5、6人が正式なWARPパイロットになるはずさ(笑)。
—そのお話はどこまで真実なのか気になるところですが…。では、これまでメジャーレーベルからの買収話などもあったそうですが、それに屈することなくWARPは音楽シーンの第一線を走り続けてきました。そのレーベルの中心となるあなたに常にパワーを与えてくれているものは何でしょうか?
ベケット 色々な要素があるけれど、ひとつは“新しい音楽”。新しい音楽を聞くとすごく興奮するし、新しい音楽がなければ僕には走り続けるパワーも出ない。あとは、チームとして活動していること。自分が信じる素晴らしい才能に囲まれて、彼らの為に何かをしているときはパワーをもらうね。他には、運動、ちゃんと食べること…そんなところかな(笑)。

スティーブ・ベケット氏。
—最後に、今回のイベントに足を運ぶ日本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
ベケット まずは友達にチケットを買ってあげてくれ。そして、彼らにも友達にチケットを買うように伝えて欲しい。あとは、帰らずに最後までちゃんといること。なんたって最後はものすごく特別な僕のロッキンDJセットが聞けるからね。頼むから帰らないでくれよ!
(Text:Chiemi Isozaki)
スティーブ・ベケット/Steve Beckett
1986年に、イギリスのシェフィールドで友人のロブ・ミッチェル(Rob Mitchell)とヒップホップ、ロック、ダンスなどを扱ったレコードショップを経営。1989年、当時常連だったDJ達のオリジナル・トラックをリリースし、「ワープ・レコーズ(WARP Records)」として、これまでにオウテカ(Autechre)、LFO、スクエア・プッシャー(Squarepusher)をはじめ、数々のアーティストを発掘してきた。2001年にはパートナーのミッチェルを癌で失うという不幸に見舞われるも、その後も映像プロダクションや音楽ダウンロードサイトを立ち上げるなど、オーナーとして精力的に活動し続けている。レーベル設立20周年となる今年、11月21日に幕張メッセで開催される「electraglide presents Warp20」出演のため、レーベルを代表するアーティスト達と共に来日が決定している。
WARP Records http://warp.net
WARP Films http://warp.net/films
BLEEP http://bleep.com
electraglide presents Warp20 http://www.electraglide.info













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