デトロイト・テクノ界の重鎮、ジェフ・ミルズが3年振りとなる新作「スリーパー・ウェイクス」を12月9日にリリースする。その名前に、アルバムの発表としては久々の登場という印象を持つ音楽ファンもいることだろう。それもそのはず、渋谷WOMBで4年にもわたるレジデントDJを務めていた彼だが、2006年秋から日本での活動を封印していたというのだ。その理由は、「約3年間にわたる宇宙旅行に旅立ち、期間後にその体験を作品として発表していく」ためだという。果てしなく広がる宇宙のように、壮大なサウンドステージ、その中でこそ輝く繊細なビート・メイキング…宇宙への興味と憧れが集約された「スリーパー・ウェイクス」について伺うべく、メールでのコンタクトを試みた。
—まず、なぜ「宇宙」に興味を持たれたのかを教えてください。
ミルズ 宇宙に対して興味を持つことはごく普通のことだと思います。すべての人間が自分たちの周りの環境に対して疑問を持っているはずですから。僕は(宇宙への興味は)自然な人間の欲求であって、人生の一部だと思っています。
—宇宙を知るために、NASAの研究員とコンタクトを取ったと伺いました。彼らとは、どのようなやり取りをしたのですか?
ミルズ 幸運にも、Cassini(カッシーニ)宇宙衛星プログラムに従事している、ドイツ在住のエンジニアと何度かミーティングをすることができました。内部事情を詳しく知ることができ、太陽系の惑星に関して通常僕たちが見ていることを、より良く理解できるようになりました。
—そのほか、宇宙への見解を深めるために行ったことはありますか?
ミルズ 現状で発見されている事実を探求すると同時に、我々が理解できないことについてもリサーチしています。宇宙探索コースを設定し、僕なりの印象のスケッチを想像して創り上げていくのです。最初に目指した惑星は土星とその輪で、これは「X-102 rediscovers the Rings of Saturn」というプロジェクトになりました(訳注:2008年ドイツのTresorよりCD発売。映像作品は世界各地で上映したが日本未公開)。
—そのような宇宙への知識や見解を、音楽作品としてどのように表現したいと思われましたか?
ミルズ 宇宙には説明不可能なことがたくさんあり、そのフィーリングを僕なりに音楽を通して表現する方法を探してきました。音楽はメロディーではなく、むしろパルスのような、何かを探知したことを示す発信音の役割を果たしています。人間には宇宙で起きていることのほとんどが見えず、そのためにテクノロジーを発明して解釈してきました。洗練されたイマジネーションを使って、解明していかなくてはならないのです。僕はこのような人間の限界に対する観念をほかのすべてのプロダクションにも適用しようとしてきました。
「スリーパー・ウェイクス」の2曲目に収録された「Spacewalk」
—「スリーパー・ウェイクス」の制作は、いつ頃から始められたのですか?
ミルズ 探検は2006年11月に始まりました。WOMBの最後のレジデンシーを終えてシカゴに戻ってきたときです。それ以来、ダンス・ミュージックを新しい創作方法、発表方法を模索し続けています。
—現在は、どのような環境で制作されているのですか?
ミルズ 部屋一杯に機材があります。コンピュータは使用していません。部屋には南向きの小さな窓が一つあります。不思議なことに、ミキシング・コンソールは常に東を向いていなくてはならないのです。それが音楽が聴かれるための方向だからです。
—ストリングスなどを取り入れた壮大なサウンドステージの中にも、しっかりとフロアも躍らせるビートが健在だった点も本作の好きなところです。ビートと、シンセなどの上モノは、どちらを先に作っていくのですか?
ミルズ プロジェクトによって方法はさまざまです。が、だいたいストリングスのメロディーを最初に作ります。ときにはそのストリングスはガイドとして使われるだけで最終バージョンには使われないこともあります。音階を使ったメトロノームとでも思ってください。この段階でアルバムの曲すべての方向性を決めるのです。ほとんどのアルバムは同系の音階やキーによって構成されています。これがプロジェクトのDNAです。すべてを一つにまとめる糸となっているのです。
—あなたの音楽制作の歴史の中で、「スリーパー・ウェイクス」はどのような作品となりましたか?
ミルズ 「スリーパー・ウェイクス」は僕にとってのターンング・ポイントです。自分だけで音楽を通して「変化」というテーマを扱うのではなく、そのプロセスにオーディエンスをまきこむ方法を見つけました。2010年1月1日のWOMBに来るオーディエンス自体が、4年をかけた制作、すべての準備の理由であり、僕だけではなく、たくさんの人が関わってこのプロジェクトが完成するのです。僕たち全員(ミッション・コントロール)が実現を目指して一生懸命です。
—再び、WOMBの2010年カウントダウン・イベントで、日本に帰還されるそうですね。ライブとしては、2008年のマドラウンジ、2009年のWIREと、遠隔地から映像を通したDJプレイをされています。その感想を教えてください。
ミルズ この2回のパフォーマンスはDJやイベントの将来の方向性を考えていく中で、僕が常に持っているビジョンを具体化したものです。シミュレーション、音と映像の放送、現実とは区別がつかないくらいリアリスティックなバーチャル体験。ライブかライブでないかの距離を測り知る人間の感覚を操作しようとしているのです。僕自身ライブに対して何の反感もありません。個人的に楽しむこともあります。ただ、ダンス・ミュージックのイベント経験は、機材を持ち込だけではなく、僕たち自身がテクノロジーと交互作用することで、より飛躍できるのはないかと考えているだけです。
—私たちの歓声は、遠く離れたあなたにも届いていましたか?
ミルズ バイブレーションを感じることはできました。このような状況でのDJプログラムは想像力を駆使して、僕の送り出すものに対してどのような反応があるのかを常に考えなくてはなりません。自分の感覚を信じて、音楽の流れる方向に逆らわないようにしました。
—あなたの宇宙旅行の間、日本のオーディエンスはどのように変化していると想像されますか?
ミルズ 日本では物事の移り変わりが激しいので、どのくらい意識が変化したのか判断しかねます。が、想像するとしたら、ダンス・ミュージックは、よりエモーショナルなフィーリングを引き出すようなデザインが必要なものになっているのではないでしょうか。今、僕たちは再び興味深い時代を生きており、音楽もその生活を反映するようなタイプのものが期待されていると思います。
—何かが変わっていると?
ミルズ ええ。4年の歳月があれば、人は別のことに興味を持ち、あるいは新しい人たちがエレクトロニック・ミュージックを発見するのに十分でしょう。新しいテクノロジーが今までとは違う制作方法を作り出し、その世代のプロデューサーたちが出てくる。オーディエンスもそれに適合する。多くの変化があると思います。
—大晦日の夜は、どのような祝宴が繰り広げられる予定ですか?
ミルズ 「スリーパー・ウェイクス」は、僕たち全員が、現状を超越した体験をする機会を与えることになるでしょう。多くの期待と好奇心を感じますし、僕はこの日のために常に準備をしていました。皆にとって記念すべき夜になることを期待しています。
—最後に、moonlinxの読者には、たくさんの音楽クリエイターがいます。彼らが、より積極的に音楽制作を楽しむためには、どのように毎日を過ごせばいいのでしょうか。アドバイスをお願いします。
ミルズ 音楽制作に関してはこれといった正しい方法があるわけではなく、個人それぞれです。僕は特に理由なく音楽を制作しているのが一番楽しいし、時間に制限されずに機材をいじっているのが好きです。時間があれば、スタジオ作業のBGMになるような、なんということはないシーケンスをよく作ります。自分が感じる通りにすることがベストだと思います。
(Text:恵美奈保子)
ジェフ・ミルズ / Jeff Mills
デトロイト・テクノシーンをDJ/プロデューサーとして牽引してきた「ターンテーブルの魔術師」。1989年、マイク・バンクス(マッド・マイク)とともにUR(アンダーグラウンド・レジスタンス)を結成。1992年の脱退後、シカゴへと拠点を移し、レーベルAXISを設立。ダンス・ミュージックのみならず、フリッツ・ラング監督の映画「メトロポリス」(2000年)や、バスター・キートン監督作品「Three Ages」(2005年)のサウンドトラックなども手掛ける。そのほか2006年には南フランスの遺跡、ポン・デュ・ガールのユネスコ指定20周年記念行事において、モンペリエ国立管弦楽団と競演。クラシックとダンス・ミュージックが融合した壮大なパフォーマンスは、DVD「Jeff Mills Live- Blue Potential」としても発売されているので必見。
「スリーパー・ウェイクス(通常盤)」
レーベル:AXIS
品番:XECD-1122
発売日:2009年12月9日
WOMB presents NEW YEAR COUNTDOWN 2010
- SLEEPER WAKES JEFF MILLS -
開催日:
2009年12月31日(火)22:00 OPEN
チケット:
8,000円(当日)、6,000円(前売)
WOMBウェブサイト:
http://www.womb.co.jp/













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