これまで渋谷を拠点にクリエイティブな活動を進めてきたNPO法人KOMPOSITIONが、今度は地方に向けて新たな活動を開始した。その名も「マチヅ・クリエイティブ」。これは、都会にはない大自然や人の温かさ、そして何より自由な生活を求めて地方へ移住する若いクリエイター達を対象にした新たな試みだ。KOMPOSITION代表の寺井元一さんに、「脱東京」をキーワードにしたその活動の内容や、地方へ移るための心構えなどについてお話を伺った。
—まずは「マチヅ・クリエイティブ」について教えてください。
寺井 マチヅ・クリエイティブは、東京を拠点にしている人たちを別の街に移す、という活動を行う団体です。僕は元々ギャラリーの運営やグラフィティライター達への合法な壁の提供など、渋谷周辺でクリエイターやアーティスト達と色々な活動をしていたのですが、彼らがここ何年かで活動の拠点を鎌倉や房総など東京以外の場所に移すようになりました。確かに今はSkypeなどで打ち合わせも出来ますし、仕事場が自分を縛り付けるものではなくなってきましたよね。僕もその頃、渋谷以外の別の場所で新しいことに挑戦したいと思っていたので、昨年からクリエイターやアーティスト達が好むような物件を地方で提供しながら人と人を繋げる活動を、「マチヅ・クリエイティブ」と名づけてスタートさせました。まちづくり+クリエイティブ、という意味合いです。
—現在はその活動を千葉県松戸市で行っていらっしゃいますよね。
寺井 松戸は江戸川を挟んで東京との県境にあり、常磐線、千代田線、新京成が走っているとてもアクセスの良い街なんです。なので、もとは企業の営業所や住宅が沢山あったのですが、駅から離れた場所に大型スーパーができ、人の流れが変わり、他にも様々なことが起こって、徐々に駅の周りが空洞化してしまった。48万人もの人口があるにも関わらず、住民にとっては仕事は市外で、松戸は帰って来て寝るだけの街になってしまったんです。とは言え、もちろん住宅地として生き残っていくことも可能です。しかし、当然そこに立つのはありふれた高層マンションですから、松戸はそのうちコピー&ペーストされた味気のない街になってしまう。それはまずいと思っている地元の人達が今立ち上がって様々な活動を行っているんです。それで僕達も、地元の人達のやる気を見て、何かできることがあればと、3年間松戸での街づくりのコンサル業を終えた友人からバトンを受け取るような形で、関わるようになりました。現在は、地元の商店街や商店主などを通して、持ち主に借り手がつかないと思われている所謂“あきらめ物件”を探し、リストアップしながら、春先から貸出せるようにと動いているところです。
松戸にある旧商家の空き物件を見学中。東京ではなかなか出会えない個性的な物件だ。
—地元の方達にはすぐに受け入れられましたか?
寺井 最初は「あきらめ物件を見せて下さい」と訪ねていたのですが、もちろん「君は何者なんだ?」という反応でした。しかし、松戸に何度も足を運ぶうちに、「ついにうちに来たか」と受け入れてくれる方や、「会いたがっている人がいるんですが、自分からは言えない人だからどうしましょう」と言われるようになりました。嬉しいですよね。地元の方達の中にも街が生き残るためには他の街にあるものを真似してもダメだということに気づいている方は多いんです。そのためにもクリエイターのような若い人達と上手く何かやりたいと思っている部分はあるようです。
—地元の方達がポジティブに捉えている点は、とても期待できますね。ところで、マチヅ・クリエイティブでは、今年1月から3月まで全6回で「脱東京ゼミ」というイベントも行われていましたね。
寺井 「脱東京ゼミ」は東京を出ることに興味がある主にクリエイターの方を対象に、実践的なノウハウや気付きを提供するためのイベントです。先日は16名の方と一緒に松戸ツアーを行い、カヌーが楽しめる江戸川沿いを歩いてみたり、物件を見たり、東京では見られないような変わったお店を覗いたりしながら、地元の方との触れ合いを通して松戸という街を知って頂きました。ツアーは思ったよりも好評でしたね。
原宿のSunshine Studioで開催された「脱東京ゼミ」の様子。
松戸ツアーで広々とした江戸川沿いの土手を歩く参加者達。
—初めにもおっしゃっていましたが、最近、一度都会を拠点にした人達が地方へ移住するという動きが感じられますね。それはなぜだと思われますか?
寺井 以前から、仕事にも成功しているそれなりの年齢の方が地方へ移住するということはありましたが、ここ2、3年で強烈に感じるのは特に若い人達の動きです。数年前、中目黒に大図実験というショップや展示会場になっていたとても面白いスペースがあったのですが、あの辺りの人たちでも鎌倉に移ったり、中目黒から拠点を移した人もいると聞いています。ベースには今の場所から「移りたい」という気持ちがあると思いますが、都会で何かを新しくやること自体も難しくなってきていて、それを地方に求めるようになったのではないでしょうか。
—しかし、現実的には都会から地方への移住も決して容易なことではないと思います。今移住を考えている人にアドバイスなどあれば教えて下さい。

寺井元一氏 (c) Takafumi Takani
寺井 地方に住むということにはすごく魅力がありますし、一見とても自由なように思えます。しかし、地方にも地元のルールがありますから、真剣に考えないと、ただ行って終わりになってしまうでしょう。結局は地元にいる人たちとどう上手く繋がって、共存していくかが重要なポイントだと思います。例えて言えば、すごく強いクラブカルチャーのコミュニティを作ることと同じなのではないでしょうか。クラブに行って黙って座っていても、友達なんか出来ない。だから自分からどんどん人と関わっていけるようじゃないと難しいですよね。あとは、東京にいる時とは仕事関係の人と会う回数も減りますから「この人じゃないと頼めない」というものがないと、仕事が減る可能性は高いと思います。今までの仕事感覚で有利か不利かと言えば、不利でしょう。ただ、この二点を突破したら、そこには楽しいことが沢山待っているんだと思いますよ。
—その辺りの可能性は無限大ですね。
寺井 そうですね。僕も今、ある人からカヌーを貸すと言われているんですが、そんなことって普通あまり起きないですよね(笑)。でも、そういうことの積み重ねで、カヌー大会を開催してみたり、スケボーみたいにカヌーをペイントしてみたり、予想出来ない面白いことが起きていくんだと思います。
—このプロジェクトのゴールはどこでしょうか?
寺井 松戸がマッド・シティと呼ばれるようになったら、その時がゴールだと言っています(笑)。以前から、そういう宛字を自虐的にしている地元の方もいたみたいですが。アーティストやクリエイター、ギーク系オタク、数奇者のおじさんなど、変なことをしたがる人たちが集まれば、街がすごく面白くなり、産業も生まれると思っています。それには仕事をするにも生活をするにも、まずは場所が必要です。綺麗な物件ももちろんありますが、皆地方では別のものを求めるでしょう。なんというか……変な物件を(笑)。しかし、そのような物件は不動産屋では扱っていないんです。そういう場所を掘り起こして、その架け橋の部分をちゃんと仕事に変えていきたいです。
—今日のお話を色々と聞いていて、「脱東京」という言葉には別の意味がるように感じました。
寺井 数年前の中目黒も今の東神田もそうですが、下町感の残るエリアにクリエイターが入って色々とはっちゃけた活動が根付くことで、もう「東京」という感じがしない街がありますよね。ですから、都内での脱東京もあり得ますし、脱東京だからと言って二度と東京に戻ってこない訳ではない。脱東京の本当の意味は、東京以外の選択肢も作り、自分の人生の中に色々な拠点、ホームタウンを持つ、ということだと思うんです。
(Text:Chiemi Isozaki)
寺井元一/Motokazu Terai
1977年兵庫生まれ。政治学を研究する大学院時代にKOMPOSITIONを設立。アートからスポーツまで、知られざる新たな分野を見つけ出しては、公園空地やビル壁面を活用して活動の場を提供するプロジェクトを運営している。横浜・桜木町のグラフィティ描き変えプロジェクト「桜木町ONTHEWALL」、ストリートバスケ大会「ALLDAY」など多数を展開。現在、まちづくりとクリエイティブの融合を目指す「マチヅ・クリエイティブ」を進行中。













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