たとえば、こんな経験はないだろうか。びんのデザインに惹かれて何かを購入したり、空になっても別のものを詰めて使用したり。ガラスでできたびんは色や形も千差万別、それだけファンも多いと思われるが、ペットボトルやプラスチック容器の台頭を受け、その利用が減少しつつあるのもまた現実である。しかし、環境保護がしきりに叫ばれる昨今、繰り返し使用でき(リユース)、回収後もびんとして再生できる(リサイクル)ガラスびんは、実は、非常に有用な存在なのではないか。
「ガラスびんデザインアワード」は、ガラスびんの良さを広くPRするべく開始され、今回で5回目を迎える。ガラスにしか出しえないその魅力とは何か、審査委員長を務める内田繁氏にインタビューを行った。
―ガラスびんデザインアワードにおける「優れたデザイン」とはどのようなものでしょうか?
内田 一番重要なのは「普通」であること、つまり無理やりな形をしていないことです。デザインアワードに応募される作品というのは、必ず用途を持っています。その多くは日常生活の中で使われることを想定していますから、日常の中で美しく存在していなければなりません。ガラスびんに限った話ではないですが、「普通」のデザインができない人には「普通じゃない」デザインもできません。では「普通じゃない」デザインとは何かと言いますと、たとえば化粧水のびんがお醤油のびんみたいなものだったら味気ないでしょう。人は「夢」や「物語」を求めていますから、生活の中でもちょっとした「特別」を欲します。ただ、特別すぎると日常を壊してしまいますし、いつでもどこでも誰でも使える「もの」は面白くありません。「もの」というのはそれが使われる「状況」で輝いてこそ価値がありますから、デザイナーにはこのセンス、バランス感覚が求められます。
―ガラスびんの魅力は、どのような部分にあるとお考えですか?
内田 ガラスは、自然素材の中で最も美しいと思っています。この美しさももちろん魅力の一つなのですが、ガラスびんとしては「落とせば割れる」ということが魅力に繋がります。当たり前のことですが、乱雑な扱いをすれば割れてしまいますから、自ずと大事に扱いますよね。頑丈なものではそうはいきません。「もの」を愛する、慈しむこころは、こういったやさしさから生まれるんです。ガラスびんは、その気持ちを自然と芽生えさせてくれるところが素晴らしいと思っています。
―個人的に「お気に入り」のびんというのはありますか?
内田 イタリアのお酒「グラッパ」のびんは美しいと思います。作っている村によってびんの種類もいろいろありますが、どれも味わい深いかたちをしています。あのびんは工芸品の域に達していると思いますね。
―ガラスびんのデザインに、全体としての流行や傾向といったものはありますか?
内田 傾向は確かにありますね。現代のこの社会性に合ってきたように思います。デザインの中でも、社会性を反映したソシアルデザイン、精神性を重視したマインドデザインとありますが、「普通」で美しいソシアルデザインが増えているように感じます。邪魔な装飾を排除して、シンプルなのが特徴的ですね。逆に、こころに訴えてくるようなびんがなかなかなく、マインドデザインに弱いのは残念です。
―2008年のアワードの審査はこれからとのことですが、どんな作品を期待しますか?
内田 たとえば、大正時代の化粧びんが「働く女性」のイメージを作り上げていたように、よりこころを豊かにするようなマインドデザインの作品に出会いたいです。大正時代というのはちょうど女性が最も社会に進出していった時代ですが、化粧びんやクリームの容器は、そういう女性たちの背中を押すような存在だったんです。現代においても、こころに結びつくようなデザインが多くあって欲しいですね。
内田繁(インテリアデザイナー)
1943年横浜生まれ。桑沢デザイン研究所所長。日本を代表するデザイナーとして商・住空間のデザインにとどまらず、家具、工業デザインから地域開発に至る幅広い活動を国内外で展開。代表作に山本耀司のブティック一連、福岡のホテル イル・パラッツォ、神戸ファッション美術館、茶室「受庵・想庵・行庵」、 門司港ホテル、富士通ゼネラルAVIAMO シリーズ、オリエンタルホテル広島他。メトロポリタン美術館、サンフランシスコ近代美術館等に永久コレクション多数。毎日デザイン賞、第一回桑沢賞、芸術選奨文部大臣賞等受賞。2007年紫綬褒章受章。著書に「プライバシーの境界線」、「インテリアと日本人」、「家具の本」「普通のデザイン」他。
ガラスびんデザインアワード2008
公募により集まったガラスびんの中から、優れたデザインのものを表彰。エントリーを昨年12月に締め切り、今年3月に受賞作品が発表となる。
ウェブサイト:
内田デザイン研究所
http://www.uchida-design.jp/
日本ガラスびん協会
http://www.glassbottle.org/














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