世界で最初のローテーター式携帯(フリップを回転させて使用するタイプ)「Motorola V70」のデザインを手がけるなど、高い知名度を誇るアメリカ人デザイナー、ジョゼフ・フォラキス(以下、フォラキス)。欧米だけでなくアジア企業にも数多くクライアントを持ち、大きな信頼を受ける彼は「ストラテジック・デザイン」の重要性を説く一人でもある。
デザインは直感的でとかく曖昧な要素に大きく依存する印象があるが、ストラテジック・デザインの考え方は、徹底したリサーチと集積したマーケティングデータの上で本質的なクリエイティブに落とし込むという、極めて理論的な手法だ。ヨーロッパなどでは既に一般的になりつつあるもの、日本の企業にはまだ理解が進んでいないという「ストラテジック・デザイン」について、彼に話を伺った。
—あなたがビジネスにされているストラテジック・デザインについて教えてください。
フォラキス 一般的にデザインとは「新しいモノを作ること」と思いがちですが、私は「イノベーション(進化の過程)をデザイン(立案・設計)すること」が本当の「デザインをすること」だと考えています。この「イノベーションをデザインする」ということは企業の核となる価値や文化を掘り下げるのにすごく役立ちますし、それを内部の人間が共有したり、またエンドユーザーに伝えるのに役立ちます。私にとってストラテジック・デザインで大切なことは、その企業にとって何が重要なプロダクトなのか。どうして、その企業がその方向にイノベーションを作る必要があるのか。この企業にとって他社とは違うユニークな戦略とは何かということを探り、カタチにしていくことだと思っています。
—コンサルティングやブランド開発の要素も入った、大きな意味でのデザインですね。
フォラキス ええ。とてもたくさんリサーチをします。それは表層的なマーケティングではなく、社会動向の本質やその企業の本質を探るものです。なぜなら、まずデザインをする上で、クライアントの企業文化の根幹部分とマーケットのポテンシャルが交わる部分を知ることから始める必要があるからです。クライアントの要望にもよりますが、最終的なアウトプットは小さいものから大きなものまで、プロダクトになるときもあれば、ブランド戦略になる時もあります。ストラテジック・デザインはあらゆる場面に応用の利くものです。

彼がデザインした照明「Havana」。ニューヨーク近代美術館の永久コレクションとなっている。
—これを遂行するのは、様々なジャンルのプロフェッショナルが関わる大規模なものだと想像するのですが。
フォラキス いえ、そうでもありません。私のスタジオのコアメンバーは4、5人です。イタリアに本拠地を構えていますが、国籍もバックグラウンドもばらばらです。
大きなプロジェクトになると、その内容に合わせて外部の優秀なコラボレーターを招集し、プロジェクトチームを編成して実施します。ここで大切にしているのは、プロジェクトに関わる全ての人間が得意分野を活かしながらも右脳と左脳を使う作業、つまり、論理的なリサーチ作業とクリエイティブなブレインストーミングなどの作業の両方に携わることです。さまざまな立場の人がいろんな観点で意見を言うほうがより建設的で独創的な提案を作ることができると考えているからです。
—ストラテジック・デザインは、欧米では一般的な考え方でしょうか。あなたのオリジナルな考え方の部分はありますか。
フォラキス ストラテジック・デザインは、大なり小なりどこかの企業がしていますが、アプローチの仕方やプロセス自体は、私のオリジナルです。ストラテジック・デザインと聞くと、合理的で論理的なデザインを想像されるかもしれませんが、私は常に人間的で文化的なアプローチ、そして先ほど言った、右脳と左脳のバランスを大切にしています。リサーチが得意なのは、昔アメリカでサイエンスプロダクト系のプロジェクトマネージメントをしていたり、イタリアのドムスアカデミー・リサーチセンターを経てきたからかもしれません。

IF AWARDを受賞したロジテックの世界初バーティカルマウス。未来的なデザインも彼の特徴だ。
—ストラテジック・デザインは、どういったものなのかは分かりました。あなたの代表作を教えて頂けますか?
フォラキス モトローラで発売したローテーター式携帯電話(フリップを回転させて使用するタイプ)「Motorola V70」のデザインです。この携帯は新生モトローラのフラッグシップマシンとして作られたもので、値段は非常に高いものでしたが、日本を除くアジア、欧米各国で4年間にわたるロングセラーを記録しました。
—詳しく教えていただけますか。
フォラキス 携帯電話の市場が出来始めた頃、その産業の先駆者だったモトローラは追随する競合他社と差別化をはかるため、技術屋からコンシューマー向けブランドにシフトする必要がありました。そのためのプロジェクトがこのVシリーズの開発です。私はこのプロジェクトを遂行するため、モトローラ社欧州デザインセンターのディレクターを3年間務めました。
そして、様々なリサーチの結果、モトローラのブランディング開発を行う上で、「ジェスチャー」がコアになると分かりました。
というのは、モトローラが一番最初に作り、今では定番である折りたたみ式の携帯電話で画期的だったことの一つが、新しいジェスチャーを紹介したところなんです。折りたたみ式は、他の携帯電話と違って、電話に出る動作に特徴がありますよね。表現豊かなジェスチャーが出来るのが二つ折りの画期的な部分だったのです。

彼が「ジェスチャー」をもとに作り上げた携帯電話「Motorora V70」。欧米やアジアでロングセラーとなった。
発表後、折りたたみ式はモトローラのアイコンになりました。例えば、遠く離れた場所からでも「あ、モトローラを使ってる」と分かる。だから、その時も、このモトローラの強みを生かして「新しいジェスチャー」をデザインしようということになったんですね。ですから、V70では形を考えるよりも先に、どんなジェスチャーがあったらいいかを考えていったんです。
その結果、ポケットから携帯を取り出し、携帯を見ずにそのまま手が耳にまでいく、スマートなジェスチャーができました。このジェスチャーを素直に形に落とし込んだ結果、回転して開くという形になり、回転するには丸い画面じゃなくてはいけない、というように、あのフォルムは「結果」なのです。
—2001年にリリースされたんですよね。当時では、とても斬新だったと思うのですが。
フォラキス ええ、その当時はみんな画面がモノクロのごろんとした子機みたいな電話を持っていた時代です。手のひらに収まる世界最小の携帯で、マテリアルやバックライトの明かりなど細部にまでこだわり、上質な万年筆のようなパーソナルアクセサリーとしてのデザイン、新しい携帯電話のあり方をデザインしました。
例えば、飲み屋で話をしていても、「あれ見た?」と言ったときに、ジェスチャーを見ただけで何のことを語っているかが分かることってありますよね。この携帯が出た時にも「これ出たよね。見た?」みたいに、象徴的なジェスチャーが、ブランドのアイコンとなってユーザーからユーザーに伝わったのです。つまり、色や形だけでなく、モノを使うジェスチャーそのものもブランドアイデンティティになるということを証明しました。
—世界中のさまざまな企業とお仕事をされていますが、日本と海外で異なるところはありますか。

キッチン・タイマー。最大60分を設定できるようになっている。
フォラキス 日本はアメリカ的な要素とヨーロッパ的な要素の両方を持っていますね。いわゆる産業的な部分や生産的な部分ではすごくアメリカ人的によく働くけれど、一方でヨーロッパの人のように文化や伝統を大切にしています。ヨーロッパには歴史や文化があって、常にそれが頭の中にあって、それが根付いています。逆にアメリカには歴史がや文化の積み重ねがあまりありません。
あと、これは個人的なことですが(笑)、世界中いろんなところに行ってますが、東京では唯一迷子になってしまいした。私はすごく方向感覚に自信があったんですがね(笑)。品川もそうですけど、駅から歩いている時に、気づいたら宙を歩いていたり、気づいたら地下にいたり。
—一般的に特殊だと言われる日本の企業でも、あなたのクライアントに対するアプローチは変わりないですか?
フォラキス 振る舞いや話は日本人に合わせたやり方になると思います。ヨーロッパや日本の企業は、文化的な部分と商業的な部分の両方を考えています。アメリカはただ単に商業的な部分だけで意識すればいいんです。
—ありがとうございます。では、あなたがやっていきたい、興味のあるデザインを教えてください。
フォラキス たくさんありますが、一番気になっていることは、都市における交通、特に個人の使う乗り物です。理由は、二つあります。一つは個人的に小さい頃から車がすごく好きだった、ということ。もう一つはグローバル社会が今ターニングポイントにきていると思うからです。工業化社会における車というのは、すごく象徴的な存在で、人間の進化をとても反映したプロダクトです。自動車産業が栄えている国は工業面がとても強いですし、かたや、個人にとって車は自分のステータスやスタイルをすごく反映するものでもあります。アートとテクノロジーが融合した彫刻のようにも見えます。以前は、重要でパワフルでポジティブな象徴だった自動車が、今ではもうネガティブなもの、都市の問題の象徴みたいになってきています。
それは、あらゆる国々や産業の進歩がある程度のところまで行って、これから何処へ行けばいいのか分からない状態になってきている象徴のようにも見えます。こんな状況の中で、個人の使う全く新しい都市の乗り物を、新しい都市のあり方の中で生み出していくということをやってみたいんです。
—それは必ずしも車ではないかもしれない?
フォラキス それは自動車である必要はないと思うし、四輪である必要もないと思います。何か新しいものであるとは思いますが、サスティナブルな進化の中で、新たな発展を考える必要があります。
ジョゼフ・フォラキス(Jozeph Forakis )
ニューヨーク出身のデザイナー。イタリア・ミラノを拠点として、ストラテジックデザインのコンサルティングスタジオ 「jozeph forakis … design」を設立。人間的で文化的なアプローチによるイノベーションとビジネス戦略のためのデザインを展開している。
ドムスアカデミー・リサーチセンターでは、世界初のバーティカルマウス(ロジテック)を、モトローラの欧州デザインディレクターとしては携帯電話V70の開発を手掛ける。また、彼がデザインした照明「Havana」は、ニューヨークのMoMAの永久コレクションとして収蔵されている。
ウェブサイト:
http://www.forakis.com/













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