11月17日(火)から、青山のNOW IDeA by UTRECHTではプロダクト・デザイナー秋田道夫氏による「新東京百景ー信号機編」が開催される。これは彼がデザインした信号機とその周囲の風景を撮影した写真展で、公共機器と街との関係性を再考させる内容となっている。湯飲み「80mm」をはじめシンプルでありつつも使い手を意識したデザインを作り続けてきた彼が手がける信号機はどのようなものか、読者としても大いに興味があるところだろう。今回は、ご本人に信号機をはじめとしたパブリック・デザインに対する考えを伺った。
—今回、NOW IDeAで開催される「新東京百景ー信号機編」は、秋田さんがデザインの信号機に特化した写真展だと伺いました。とてもユニークですね。
秋田 わたしが携わった信号機が、東京の名所ともいうべき建物の前にあることに多いので、その建物と信号機を一緒に納めた写真展を開いたら面白いのではないかと考えたのがきっかけです。信号機にデザインがあると思う人は少ないですよね。普通なら「止まれ」の赤信号が上なのか、「歩け」が上なのかも分からない程度でしょう。でも、このようなインフラ部分のデザイン性を上げることで少しでもデザインのレベルアップに繋がればいいなと思いますし、それを展示会で示したかったこともあります。
—建物と一緒に撮られているので、普段気にしない公共機器と街の関係性がどういうものか考えさせられます。
秋田 実際に設置されているところで言うなら、例えば安藤忠雄さんの建築の前だと、僕の信号は少し野暮ったく見えたり、古い建物の前だと、信号機のデザインが目立ちすぎたりとかもしていることもあるんです。でも、かっこいい場所のためだけにかっこいいデザインをするものでもないので、いろんな場所に配置されることを総合的に判断してどの辺のデザインにするかを決めるのはとても難しく、そして重要な問題でした。また、そんなに多くない信号機の制作会社のなかで一社だけあまりにエッジ過ぎたデザインを出してしまうと、そうでない信号がある場所とのギャップが大きくなってしまうということは、バランスが良くないことだとも思いましたし。
写真(左)秋田氏がデザインした歩行者信号機と写真(右)従来の信号機。氏の信号機のほうが、厚さがなく現代的なデザインになっていることがわかる。
—確かに、公共のものですから大変難しいですよね。これまでの信号機とデザイン的に違う点がありましたら教えて下さい。
秋田 電球を使った信号機からLEDに変わったため、格段に信号機が薄くできるようになりました。それによって、様々な場所に設置できるようになったんです。今回、展示の写真にもありますが、軒先をかすめるようなところだったり。あと、薄くなるということは本体に使う材料が少なくなりますから、軽くなるんですね。軽くなると、信号機の支柱の強度もそれほど意識しなくてもすみます。ということは、全体的に省材料につながるんです。薄いこと自体は各社同じですが、後ろを曲面にすることによってさらに薄く「感じる」ようにしました。もう一点は、一般の信号機はマークの外側に二つの囲みがあるんですが、そのフレームの一つをなくしてしまったんです。これだけでも随分正面がすっきり見えるにようになりました。
—なるほど。ほかに、ご自分がデザインされた信号機が配置されている姿を見た時に気づいた点があれば教えて下さい。
秋田 僕の信号機には黒とグレーの2タイプがあるのですが、都心では黒いほうが多いんです。おそらく、景観の中に目立たないようにするためでしょう。信号機は、信号機自体が目立つのではなく、人間のマークだけが目立ってポッカリ浮いていれば良いと思うんですね。そういう意味では「目立たなく目立っている」ことが、僕は新しいデザインの解釈じゃないかと思っているんです。
—日本の新宿や渋谷は人も多く混沌としていてノイジーですよね。公共の場としてあの混沌さを洗練されたものにすれば、すごく快適になると思うこともあるんですが、そのような考えはありますか。秋田さんは、信号機というパブリック・デザインを手がけるにあたり「しつけのあるデザイン」を心がけた、と伺ったのですが。

秋田道夫氏
秋田 うーん。僕の言っている「しつけのあるデザイン」とは、しつけを強いるのではなく、しつけが自ずと身に付くデザインという意味なんです。自分の道義心や倫理観に訴えかけると言いますか、自主的にそうしたくなるということ。街全体を一斉にこうしたいという考え方は怖いと思うので、僕はそれはしたくないんですよ。
—おしつけないデザインということですね。
秋田 警察の方が信号機を選ぶ場合、どこの製品にするかの決定条件として、デザインという点はそもそも項目に入っていないと思うんです。コストの低減、設置しやすさ、メンテナンスのしやすさなど、文章化できる総務課的メリットを重視されるほうが多い気がします。例えば、耐用年数が長い信号機には、「雨垂れしにくく錆びにくい構造になっている」ということが一つあると思うんですが、そういう分かりやすい理由があれば、「あ、それだったらいいね」とか「最初同じでも、5年10年経つと、だんだん差が出てくるんですね」と納得してもらえる。つまり、優先的に買ってもらえる可能性がある。デザイナーと関係ないように見えますが、これはデザイナーとして関われる部分だと思うんですよ。僕はこれがかっこいいんだという抽象的な概念ではなく、こういう理由でこのことがいいと思っています、とまでデザインで言えるようにしたいわけです。
掃除をする人のことまでを考慮した、秋田氏デザインのソファー「INCLINE」
—これまでのデザインでも、一般のユーザー以外の人物を意識されてきたんですか?
秋田 ええ。例えば「INCLINE」というソファーの時は、掃除する人が簡単にソファの下をきれいに出来るように考えた結果、足元が広く開いたデザインが生まれました。
—それだけ色々な視点を考えていらっしゃるんですね。秋田さんのインハウス・デザイナー時代の経験も大きいような気がします。
秋田 やっぱり多くの視点を持つことで、「そのモノ」が大事であることが証明されるんですよ。デザインを理解していない上司や上層部の話をよく聞きますが、それは、自分がその人の立場になって考えた時、なにが問題なのかという視点が欠けているからだと思うんですよ。色々な目線から検討して、このデザインに行き着いたかを話せば納得してもらえるはずなんですよね。それがデザインにおける説得力でしょう。以前、自分のブログに書きましたが、立体が黄金比で見えるポジションは一つしかないんです。縦と横の長さを黄金比で作ったとしても、少し傾いただけで幅が圧縮されて黄金比でなくなってしまう。だからこそ、ものを黄金比のポジションで見ることが大事だと。逆に言うと、一般的には美しくないかもしれないものを、そんな目線で見ればきれいになる。自分をそこの目線にするっていうことが大事だと思うんです。
「新東京百景—信号機編」のフライヤーの写真とともに。原宿のラフォーレ前の信号機も彼のデザインだ。
—なるほど。
秋田 それを見たときの言葉を言語化すればみんな幸せじゃないですか。だから、美しい人が美しいのは当たり前だけど、そうでない人の美しさを見出せれば世の中もっとハッピーになれるし、広がりますよね。だから、デザインを勉強することがデザインの世界を狭くするなら、勉強することをやめた方がいい。色々なことに興味あれば、道すがら見たあの看板が面白かったと感じることができるけども、そもそも興味がないと面白いとは思えない。タモリさんが面白いのは、なんでもないものを掘り下げるからだと思うんです。坂が好きだとか。そうするとちょっと面白い時間が増えますよね。日常が輝きだすというか。デザインも同じで、日常を輝かせる力があるものだし、デザインの勉強はそういうことであって欲しいと思うんです。
—ありがとうございます。では、最後の質問です。次回、また信号機をデザインするとしたら、やってみたいことを教えてください。
秋田 消える信号です。ちょっとかっこいいでしょ?(笑)。見える表示、消える信号機自体というのが正確な表現でしょうか。LEDになって薄くなった信号機の先にあるのは、マークだけが際立つ信号機なのではないかと思っています。
秋田道夫/Michio Akita
1953年大阪府生まれ。1977年愛知県立芸術大学美術学部デザイン科卒業。同年トリオ株式会社(現・ケンウッド)入社。1982年ソニー株式会社入社。1988年よりフリーランス・プロダクトデザイナーに。デバイスタイルの「一本用ワインセラー」、生活家電シリーズ「MA」、コクヨIDカードホルダ「HUBSTYLE」、ステンレスステーショナリー「プリマリオ」、またセキュリティーゲートやLED式薄型信号機など幅広くデザインに携わる。













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