昨年のDESIGNTIDE TOKYOでも話題になった、デザイナー自らが硬化アルミニウムを曲げて組み上げたという椅子、「composition chair」。その圧倒的な重厚感から、それが手作業で作られた製品とは誰もが想像しなかったはずだ。製作者は静岡に拠点を置く共栄デザインのデザイナー、岡本光市氏。「composition chair」以外にも、ユニークな発想から生み出された共栄デザインのプロダクトは、日本はもとより海外からも引き合いが多い。彼のインスピレーションやルーツはどこにあるのか、お話を伺った。
—今月開館したばかりのイスラエルの美術館、デザイン・ミュージアム・ホロンのオープニング・エキシビションの展示作品に、岡本さんの「water clock」が選出されましたね。どのような経緯で選ばれ、どういったところが評価されたのでしょうか?
岡本 I.D.マガジンの編集長ジュリー・ラスキー氏から連絡があり、選出いただいたのがきっかけです。「THE STATE OF THINGS: DESIGN AND THE 21ST CENTURY」というタイトルで、数年前には難しいとされていた生産や製作工程が、21世紀の新技術や工芸の再構築などにより可能となった作品が展示されます。「water clock」は、時計の形状デザインではない、機能のデザインという部分が評価されたのではないでしょうか。
「water clock」(写真上)水を入れた皿に浮かぶ赤と白のボールが時計針の役割を持つ。このボールを時計として制御するのが、写真下の四角いセラミック。
—「water clock」は、どのようなプロダクトなのでしょうか?
岡本 セラミック製の四角いプレートと付属のボール、それに、購入者ご自身のお皿やグラスからなる時計です。四角いプレートの上に水を入れた器を置き、そこに小さなボールを浮かべると、ボールが時間を示すようになっています。これは、水の浮力と磁石の引き合う力を利用して出来ている時計で、N極が分針、S極が時針になっているんですね。このアイデア自体は、かなり昔に考えたものです。当初から、水に浮かぶ時計針をイメージしていましたが、最終的な構造、つまり購入者が好きな皿やグラスで使えるという発想が生まれたことで製品化することができました。本体部分の素材をプラスチックや木ではなく陶器にすることで重厚感が生まれたと思っています。真四角という形状を陶器で作るのがとても困難でしたが、友人でもある韓国の若手セラミックアーティスト、ダニエル・ジョーにより、3Dモデルから型を作る方法で完成しました。
—昨年のDESIGNTIDE TOKYOで出展された「composition chair」も話題になりましたね。驚いたのは、岡本さん自身が実際に硬化アルミニウムを曲げて、一から組み上げた作品だったということです。
岡本 アルミ線で遊んでいた時にこの構造が閃きました。完成イメージや図面など用いず、頭にあるイメージだけで一気に組み始めましたが、曲げ加工がかなり力のいる作業で、マメはできるし、筋肉はつくし…。ほとんど肉体労働でしたね。製作には1日4〜5時間の作業で、半年ほどかかりました。
「composition chair」は、硬質アルミニウム線を専用の治具で加工したもので、溶接やボルトなどは一切使用されていない。岡本さんの手作業で組み上げられたものだが、かなり精巧に出来ていることがわかる。
—膨大な時間がかかる作業ですね…。量産が大変そうですが、その予定はあるのでしょうか?バイヤーからも人気があったと伺っていますが。
岡本 現在北京のギャラリーを通じて、コレクターの方とコンポジションチェアーの生産数等を商談中です。もちろんすべて私の手作業で組み上げます。
—共栄デザインが過去手がけてきたプロダクトの中で、特に印象に残っているものはありますか?
岡本 それぞれに思い入れがありますが、特に挙げるとしたら「BalloonLamp」です。これは、私が最初に手掛けたデザインプロダクトでもあり、自分のキャリアの転機となったものです。日本の提灯を進化させたような作品で、ろうそくはリチウムコイン電池に、炎はLEDに、紙はゴム風船にと姿を変えたものです。ウェブ上で発表した際に様々なイベントやショップからオファーをいただくことで共栄デザインのスタートを切ることができたので、ある意味では代表作になっていると思います。
共栄デザインによる最初のプロダクト「BalloonLamp」。ゴム風船とLEDを使用したユニークなランプ。リチウムコイン電池を使用することで100時間以上の点灯を可能にしている。
ーデザインをされる以前は、サウンド・プロデューサーだったと伺いました。デザイナーになるきっかけは何だったのでしょうか?
岡本 1999年頃、「BEKKOU」名義でミニマル・テクノをリリースしていたのですが、それがなぜかいつもオランダのレーベルからで、その度に現地へレコーディングに行っていたんです。ある時、滞在中にたまたまテレビ番組で、「アムステルダム・マンションに住むアーティストたちの週末のイベント情報」を見たんです。「アムステルダム・マンション」とは、勝手に人が住み着いた廃墟なんですが、それがすごく気になって訪れてみたところ、数人のアーティストが平日は創作活動、週末にはマーケットを開き、そこで生活をしていて、彼らがすごく輝いて見えたんです。もともと僕自身、オブジェ製作やエアーブラシを使った作品作りはしていましたが、彼らとの出会いで創作意欲をかき立てられ、売るものを作るという考えが自分のなかに生まれていきました。
—では、プロダクト・デザインの勉強は通過せずにいきなり職業にされたんでしょうか?
岡本 ええ。すべて独学です。とにかく見て、歩いて、どこの国でも本屋に入り浸りでした。幸いにも私の父親は自動車のライトアッセンブリの工場を営んでいることもあり、製造業が身の回りにあったので、プラスチック成型や金型、金属加工など様々な職人からたくさん教わる事ができました。また、実際に私も製造業で働いていた経験もあったので、その経験が今でもとても役立っています。
「glass tank」。グラスとワインのタンクが合体したユニークな作品。水圧と大気圧のバランスによりグラス内のワインが一定量より減るとタンク内のワインが送り込まれる仕組み。「グラス部分とタンクを繋ぐ管の直径と角度でおこる現象で、寸分違うとうまく機能しないのですが、職人さんから送られてきた試作第1号が一発完成だったので驚きました。」(岡本氏)
「endless rain record」。雨音と滴音のみが収録されているレコード。レコードの溝が輪になっており、雨の音が永遠にループするというもの。音楽も手がけてきた岡本さんならではの作品。
—共栄デザインさんの作品には思わず笑顔になるユーモラスな作品も多いですよね。このようなユニークなアイデアはどういうときに浮かぶのですか?
岡本 特に意識はしていないですが、なぜか笑われますね。でも嬉しいです。アイデアが浮かぶのは、ふとした時、としか言いようがないのですが、リラックスして思考が柔軟になるのか、旅行に行ったりしていい刺激を受けるとアイデアが浮かぶことがあります。音楽にしてもプロダクトにしても、逆にゆっくり時間をかけて考え抜いたものに限って翌朝見るとしっくりこないんです。自分が納得できるものの主な部分は一瞬の閃きだけかもしれません。
—海外の展示会にも出展されていますが、その中で印象に残ったものがあれば教えてください。
岡本 海外の印象深いイベントとしては、ニューヨークのMeatpacking District Design WeekやICFF、韓国のSeoul Design Olympiad、最近ではロシアのDesign Actや、Taiwan Designers' Weekなどです。ロシアの会場は、什器も照明もないぼろぼろの倉庫で、しかも、出展者が事前に注文していた什器はなぜかひとつも届かず、出展者による手作りのイベントと化しました(笑)。しかし、これはなんとロシアでは最大規模のデザインイベントだったんです(笑)。でも、おかげで出展者には妙な連帯感が生まれたので、生き生きとして、来場者も本当に楽しそうでした。
海外のイベントに参加して様々な国のクリエイターと話をすると、国や製造業の状況によって、作りたいものを作ることができないという話をよく聞きます。週末に車で数時間かけて街まで材料を買いに行くとか、出来上がってきたものの質が悪いとか、個人発注は相手にしてくれないとか。それでも、彼らは限られた中で創作活動を極めているようにも思えます。その点、日本は物も溢れていますし、比較的様々な物が手に入りやすいので、世界的にも恵まれている国だと思います。そして、作り手も業者もたくさんいるので、大量生産を望まなければ日本国内だけである程度のものづくりはできる環境にありますね。
昨年のTokyo Designers WeekのDesignboom Martではセクション全体の照明に共栄デザインの「bulb lantern」が採用された。
—最後に岡本さんの今後の計画について教えてください。
岡本 ひたすら物作りをしたいです。また、ここ数年音楽のリリースがなかったので、もうそろそろ次回作を出したいな、と思って最近また曲作りをしています。
岡本光市氏
岡本光市(共栄デザイン)/Kouichi Okamoto (Kyoei Design)
サウンドプロデューサー・プロダクトデザイナー。1997年よりオランダのテクノレーベル"X-Trax"より音源をリリース。2006年、共栄デザインを設立。同年、静岡県立美術館にて個展「TWO DAYS & FOUR PRODUCTS」を開催。同5月、NYで開かれたICFF(NY)にイタリアのdesignboomより参加など、作品は特に欧米諸国で高く評価され、アートと音楽、デザインを横断するデザイナーとして期待されている。共栄デザインのプロダクトはDroog、Colette、アトランタデザインミュージアム、ロンドンデザインミュージアムなど、世界30カ国以上のデザインブランド、ショップ、美術館などで扱われている。













[前の記事]「音楽映画」の可能性、作曲家・安野太郎インタビュー
[次の記事]サンダンスを熱狂させた、バンクシーの初監督作品とは?





























