グローバルブランドブックの表紙。ハードカバーに箔押しの豪華な装丁だ。
クリエイティブエージェンシー、Wieden+Kennedy(以下W+K)が自社のグローバルブランドブックを発刊した。分厚いハードカバーで装丁されたこの本は、各オフィスで働く社員、そしてこれからW+Kとともに仕事をする人びとに向けて配布される。世界中に散在するW+Kの作品を一挙に集め、9ヶ月あまりの制作期間を経て完成したブランドブックは、ユーモアに溢れ、挑戦的で、読む人の心を大きく揺さぶる。そして、ポートフォリオの枠を超えて私たちにいくつかのインスピレーションと示唆を与えてくれる。
ダン・ワイデン(左)とデイヴィッド・ケネディ(右)。
まずは、W+Kの歴史について振り返りたい。W+Kはダン・ワイデンとデイヴィッド・ケネディの二人によって、1982年にアメリカ・ポートランド州に設立されたインディペンデントな広告代理店だ。Nikeの"Just Do It"をはじめ、これまで人びとの心に残る多くの広告を世に送り出していった。1992年にアムステルダムにオフィスを構えたのを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、東京、上海、デリーとその拠点を広げ、現在では7つのオフィスが存在する。業務内容も単なる広告制作にとどまらず、レーベルの展開、イベントの企画、TV番組の制作などを行っている。その象徴的なものの一つとして、2003年にはW+K東京LABを設立し、高木正勝やHIFANAなどのアーティストをプロデュースしている。
20年以上たった今、グローバルに広がったオフィスと作品をもう一度集め、一つの系譜としてまとめようというのがこのプロジェクトのきっかけである。
ロンドンでのノキアとの契約が、ポートランド本社主導ではない初めてのグローバル展開だった。
ブランドブックを手に取った時の一番最初の印象は、「豪華」だろう。ハードカバーに特殊印刷を多用し、鮮やかな色彩と大胆かつ緻密なレイアウトで妥協を許さない高いクオリティだ。W+K東京LABのページにはDVDを用意。高木正勝、HIFANA、AFRAなどの映像を惜しみなく収録している。作品集としては本当に素晴らしい完成度だ。
W+K東京LABのページ。1時間におよぶビデオクリップをDVDに収録している。
だがW+Kの本当の魅力はそんなものではなかった。作品の合間合間に紡がれた文章を読むにつれ、当初の感想が非常に浅はかであったと感じずにはいられなくなる。本文からいくつか引用しながら、彼らの根底にあるものを読み解くとしよう。
"You're not stupid anymore, you are freaking dead."
「バカじゃなくなったら、死んだも同然なんだ。」
ワイデンとケネディの二人が何より素晴らしかったのは、彼らが自分たちのことをstupid(愚か者)だと思っていたことである。自分の知識を信じてしまうと、疑問を持つことはしなくなり、学習した方法論を繰り返し、新しいことは生まれなくなる。しかし、分からないことを、必死で分かろうとする。分からないことを分かろうとする間にクリエイティブは生まれるが、分かったと思ってしまうことはクリエイティブを阻害する。
"'The work comes first' doesn't mean creatives are king."
「『クリエイティブ優先』といっても、クリエイティブの人間が王様だということではない。」
常にクリエイティブであること。クリエイターが偉いという意味ではない。全てを一番クリエイティブな方向に持っていこうと全力を投じるということだという。
そして何より彼らが大切にしているものが、コミュニケーションだろう。クライアントとエージェンシーの関係も、ブランディングも、すべてはコミュニケーションがベースになっている。表紙に散りばめられた多くの写真もそれを物語っている。
『WIEDEN+KENNEDYで働いたことのある人間のかなり包括的なリスト』
W+Kの紡ぐ物語はここで終わらない。裏表紙に埋め込まれた,W+Kの「+」を表す、プラスチックの白い十字架を外すと、薄いUSBメモリーが表れ、PCに差してW+K Megaphoneというアプリケーションをダウンロードすると、彼らの最新のブログエントリーや作品を見ることができる。コミュニケーションは常に現在進行形であるということだ。

十字架型のUSBメモリーには思わず意表を突かれる。テクノロジーとデザインとユーモアが、この本では細部にまで行き渡っている。
ある人はW+Kの作品を絶賛し、ある人は疑問を示すかもしれない。それでいいのだ。失敗を恐れ、全てのステークホルダーの意見を平等に取り入れ、賢そうに振る舞っていたら、きっとつまらなかっただろう。最高にカッコいい仕事をするためだけに全力を注ぐワイデンとケネディの思想があるからこそ、W+Kはここまでの存在感を示しているのではないだろうか。
Wieden+Kennedy / ワイデン+ケネディ
1982年、ダン・ワイデンとデイヴィッド・ケネディの2人によってアメリカ、ポートランド州に設立されたクリエイティブエージェンシー。現在、東京、ロンドン、アムステルダムなど世界7カ所にオフィスを構える。常にストリートカルチャーにセンセーションを巻き起こし続けているNIKEを始め、HONDA、COCA-COLAなど数々のビッグキャンペーンを、卓越した表現の力で成功に導いている。東京オフィスもアダプテーション(翻訳作業)をする、外資系広告代理店ではなく、良い企業とその顧客との間に強く刺激的な関係を創出するハイブリッドな会社として、様々なバックグラウンドを持った者たちが、それぞれの得意分野やスキルを活かし、ブランド構築を必要としている日本の企業に新しい視点とクリエイティビティを提供している。
ウェブサイト:
Wieden+Kennedy http://www.wk.com/
W+K TOKYO http://www.wktokyo.jp/













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