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FILE.013 (12/01, 2008) ファンタジーと現実との間に / 森本千絵 - goen゜ 森本千絵

非常にポジティブなエネルギーをまとった人であった。アートディレクター森本千絵は、自身の会社「goen°」の名が示すとおり、人との「縁」をとても大切にしている。博報堂を退社する際は、お世話になった先輩、後輩みんなに自筆の手紙を書いたというエピソードがその彼女の人となりをすべて表していると言えよう。幼少期から空想と現実を行き来していた彼女は、もの作ったり、新しい遊びを作ることが得意であったという。やがて、それが広告の仕事に結びつくわけだが、その根底には常に人を喜ばせるためにものを作り続けたいという人間愛に満ちた彼女の思想がある。人間関係が希薄な現在こそ響いてくる彼女の言葉に耳を傾けてもらいたい。

「NO」と言われても「意外にそうかも。」って思う
─森本さんの最近のお仕事を簡単に教えてください。
12月10日発売のMr.Childrenのニューアルバム「SUPERMARKET FANTASY」に関わるアートディレクションです。これは、音楽を聴いた上で、それを体にしみ込ませて、ビジュアルアイデアを立案し、メンバーの皆さんに、聴いて感じた思いを形にして見てもらうんです。Mr.Childrenのビジュアル展開に関しては、私はいつもそれぞれ15案くらいの企画案を先方に提出し、プレゼンテーションしています。私の博報堂での最後の仕事となった、彼らの前回のアルバム「HOME」を発売してから今回のアルバムまで、約一年半の期間が経っていました。「HOME」は当たり前にある大切なことを敢えて形にしました。でも今回聴いて感じたのは、そんな日常の中でも痕跡があり、わくわくしてキラキラするなにかだったんです。そこで、企画書の中に、「スーパーマーケット・ファンタジー」という名の案があって、その世界観で決まり、そしてこのアルバム名となり、さらに、ここから「エソラ」という曲の歌詞へと広がったみたいです。お互いに反応しながら自然と生まれていくということで楽しい作業でしたし、とても勉強になりました。
─現在進行中のお仕事はどのくらいの数なんでしょうか。
細かいことも含め、20件くらいでしょうか。一通りやっています。音楽関連、書籍、空間、その他活動。
森本さんがアートディレクターを務めた Mr.Children「SUPERMARKET FANTASY」
…いつも思うのですが、すべてのお仕事は、孤独で始まるんですよ。つまり、「お邪魔します。はじめまして」って人と会うところから。でも、アイデアが生まれることにより、たくさんの信頼する人と出会い、みんなで盛り上がっていくんです。だから制作の時は、とっても楽しいんです。でも、それを仕上げる瞬間は、また孤独になっていくんです。その時は、始まりと違い、必ずみんなに届けたい!と強い責任を抱いた孤独ですが…。だから、心と体をめいいっぱい使います。それを常時やっているので、日々、どきどき、わくわくしてしまう仕事だなあと思います(苦笑)。
─お仕事で憂鬱になることはあるのですか。
ないんです。たとえ「NO」って言われたとしても、「意外にそうかも。」って思っちゃうほうで。例えば、「もっと文字大きくして。」って言われた場合、文字を大きくしてみたら「うわ、かっこよくなった!」ということがあったりしますから。人に対して壁を作ることはないんです。あと、単なるデザインだけで終わるような仕事でも、私は本気で楽しんだりする方向に絶対持っていってます。
─人に対して壁を作ることはないのは、昔からそんなスタンスなんですか。
そうですね。作家的に「こうじゃなきゃだめだ。」と言うことはなくて、最初の時点で決まっていたことも、流れに沿って変化していくことが自然だと思っていますから。一緒に仕事する人のやり方でやってみると自分の力以上のものになるし、自分が想像もつかなったことが出来上がります。そして、それを体験することで、また感動することもあると思うんです。つまり、私の感覚では、自分の体の中で仕事をしているのではなく、体の少しはみ出たところでやっているんです。まるで幽体離脱のような(笑)。巨大な感じです(笑)。
─面白い感覚ですね。
楽ですよ。自分の中だけで作っていないから、駄目と言われても、すごく落ち込むこともないし。時代、季節、タイミング、状況によって駄目なものは変わっていくとも考えているから、それほど落ち込むことはないんです。
遊びを開発するのが得意な女の子だった
─小さい頃はどんな女の子だったんですか。
実は、まともに言葉を話せるようになったのが小学校の低学年だったんです。当時、先生を先生として認識もしていなかったんですよ。なにかよくわからないけど、毎日行く場所だから学校に通ってたっていう(笑)。その頃は、いろんなものを記号としてでしか覚えることができなかったんです。当時、バスで学校に通っていたので、親からは「『01』という表示のバスに乗ればいい」と教えられていました。私にとっては「01」と言う数字ではなく、「丸」と「棒」という記号で覚えていて。でも「01」だけじゃなくても他の数字のバスでも学校に通うことができるんですよ。同じ学校の子供達はそれを知っているから、他のバスが来たら乗るんだけど私は「丸」と「棒」のバスに乗らないといけない、と思ってずっと待ってる。どれだけみんなが私に「このバス乗りなよ。」って言ってもかたくなに「丸」と「棒」のバスを待っていたんです(苦笑)。バカですよね。はずかしい。
─ユニークなエピソードですね。
小学校の二、三年生までは、現実世界で友達を作る気はなかったらしく、頭の中の、イメージした何かが友達でした(笑)。また、私の母も面白い人で、絵本だけではなく、母の絵空事の創作話を私に話して聞かせてくれていたんです。でもあくまで絵空事だから話していくうちにどんどんストーリーが変わっていく。今から考えると、主人公の名前も途中で変わっていたこともありましたよ。でも私は、そんな母の創作話で読書感想文を書いたこともあったんです。だから、リアルと自分のファンタジーの境界がない中で育っていった部分がありましたね。イメージはすべて現実になるものだと思うのが、この頃から始まっちゃってたのかもしれません(笑)。
─当時、欲しいものはどうされていたんですか。
欲しいものは、買うか、自分で作るかのどちらかでしたね。あと、遊びを開発するのが得意で、ダンスにしても、鬼ごっこにしてもオリジナルを作っていましたね。小学校三年生のときのクラスで演劇では、男の子と女の子を、逆にして演じてみたり。他にも歌詞をめちゃくちゃにして歌ってみたり。でも私自身はシャイだったから、その発想を自分がクラスの活発な子に提案して、彼らに実行してもらっていました。クラスのみんなが盛り上がる、ということが好きでしたね。そのうち、友達の撮った写真を綺麗に包装してリボンでラッピングして、絵を書いたフレームを作ってあげるようになサービスなどもやっていました。
そうなってくると年賀状なんてプレッシャーになってくるんですよね。11月くらいから家ではピリピリしちゃったり。その頃からなにか背負ってました(笑)。ずっと伝えたいことは何かに示して言葉以外で届けてたんです。本当にシャイだったんです。今もそうですよ(笑)。
─また、家庭でも森本さんの創作を認めてくれる環境があったんですね。
そうなんです。両親は私が作ったものは一緒になってなんでも褒めてくれました。いや、むしろ褒めさせてたのかもしれません(笑)。また、駅のポスターが新しく掲出される時は、父とよくそれらを見に行っていました。ポスターと一緒に写真を撮ったりして。公共の場なのに。
─実際に、こういった広告のお仕事をやりたいと思われたのはいつの頃だったんですか。
中学校三年頃だったと思います。小学校の頃から、CMやポスターなどの広告を見て、「もっとこういう風にしたら面白いのに」って言っていた生意気な子でした。もともと、なにか商品があってそこに思いを代わりに伝えることが好きだったんです。だから、人に誕生日プレゼントするのが私は大好きです。どんなものをあげたら喜んでくれるだろうって考えるのが好きなんですね。人にあげるっていうのは、相手にだけでなく、そこに自分も映るから結果的に、私にとっても嬉しいことなんです。いろんな喜び方、驚き方がありますよね?それを毎回、考えること自体が好きなんです。まさに、それって広告の仕事ですよね。
女性は強いですよ(笑)
─人との縁だったり、クライアントとの仕事の仕方だったりと、森本さんの人への強い愛情を感じるんですね。それが結果的に森本さんに良いお話がまた巡ってきている、そんな風に思うのですが、意識はされていますか。
ええ。親からは愛されていましたし、一方で小さい頃いじめ的なものにもあってたりで、愛されることも傷つくことも両方を体験する環境に恵まれたので、人の気持ちはよくわかります。だからこそ、愛情をたっぷり注いだものを作るようにしています。その分、いろんな人から愛情を注いでもらっていますから。まさに、愛の循環(笑)。
─その愛情を注ぎ込んだ作品を世の中に送り出したときはどんな感覚なんでしょうか。
寂しいです。胸に穴が空いたような感覚ですね。作ることや、「なにか表現したい」と思うこと、人から「表現して欲しい」と思われること自体が、私のなかで当たり前のように呼吸して生きているように感じているので、表現することがなにもないというのは耐えられないんです。…でも、なにもなかったとしても結局「これをしたら面白いんじゃないか」っていろいろ考えちゃうんでしょうけどね。旅をしつづけているかんじです。
─森本さんの作ったものに感じる、人の温かさやちょっとしたわくわく感はそのファンタジーの世界と現実世界を行き来されているところかも来ているのかもしれませんね。それに反して、これだけ世の中でテクノロジーが発達して、人とのつながりが希薄になり、温かみがなくなりつつある現在をどう見てらっしゃいますか。
インターネット上でも顔が見えない、誰かわからない人達が無闇に中傷したり、否定したりする状況は気持ち悪いことだと感じています。たくさん書き込みを行っているのに、顔を合わせると目を合わせてもそらしちゃう人が本当に多いですよね。履歴書を書くのは上手なんだけど、面接では話せない若い学生が今、多いんです。それはどうなんだろうって思いますよ。やっぱり自分の声を出して話をしてみたり、誰かの肩をたたいてみたり、お店に実際に行って、その空間の中で物をちゃんと選んでお金を出して買う、などの当たり前の行為がカットされてしまうと、人間が人間の身体を持っている必要があるのか、と思うんです。


頭だけで他の身体の部分は必要ないですよね。アナログ性というか、人に会うことだけでなく、質感や空気、においなどの"良いこと"をちゃんと肯定した上で、それらを便利にするために、テクノロジーを使用する、ということであれば良いと思います。アナログ的なものを深掘りするために、テクノロジーを素材として使うことをベースに理解しておかないと、その中だけで生きてしまうと寂しいじゃないですか。だから、私がウェブサイトを作るとしたら、インタラクティブなものにして、情報の見え方に人の気配が感じられたり、多少のストレスをわざと作ったりしますね(笑)。
─最後になりますが、将来の夢はありますか。
子供を産みたいですね(笑)。命を育てたいという思いはあります。そして、出産後も働きたいです。もちろん、goenをたくさん生んでいくこともしたいです。あと将来もなにも、いつも「今」が大事で、夢とか語っている場合じゃありません(笑)。十分、楽しんでいるし、でもまだまだ楽しみを生みたいし…。
─女性に優しい職場環境を作れば、出産後も気にせず働くことができますね(笑)。
ええ。そして、女性は強いですよ(笑)。女性は本来の女性らしさや強さに自信を持って、堂々と仕事をしたらいいのではないでしょうか。また、ものを作り育てることは、なにかしら、母性というか、根源に強い愛情がないと出来ないことだし、「こうじゃないといけない」という決まった一本の道以外に柔軟に対応できるクリエイティブな部分が女性には備わっていると思うんです。ちなみに「おばあちゃん」が存在するのは、人類だけっていうこと、ご存知でした?最近、佐治晴夫博士から聞いたんです。オランウータンでもチンパンジーでもメスはある時から性別がなくなるんです。でも、人類だけは違う。いつまでも女性でありたい、という感覚があるからだそうです。おしゃれしていたいとか、恋してたりとか、何かを守ったり残したいとか…。それって、身体の都合だけではない、大きな何かがそうさせているんだと思うんです。私はそこにすごく大きな希望を抱いているんです。
11 Questions - moonlinx が訊ねる11の質問
Q1 あなたにとってインターネットとは?

自分の意志だけで進む世界。よくわからない。

Q2 最近最も気になることは?

「呼吸」とか「気」とか。

Q3 最も影響を受けたアーティストは?

沢山いすぎて…。Mr.Children、近藤良平さん

Q4 将来の夢は?

オリンピック(笑) いや、常に明日もいい日だといいな どまりです。

Q5 自分を一言で言うと

千絵(おばあちゃんが、たくさんの人に会う、描くという漢字の意味合いから名付けてもらったから)

Q6 好きな音楽は?

残っていくもの大半。

Q7 クリエイターに向けて一言

みんなでいろんな人やモノを歓ばせていきましょう。

Q8 座右の銘

goen

Q9 どんな子供でしたか?

常に5cmぐらい浮いてた感じです。リアリティがない。

Q10 今の職業をやっていなかったら何をしてますか?

何かしら、似た考えのことをやってると思う。

Q11 最近ブルーになったこと

愛車が森化したこと

森本千絵
Chie Morimoto

WEBSITE: http://www.goen-goen.co.jp/

1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、博報堂、博報堂クリエイティブ・ヴォックスを経て、2007年に独立し、株式会社goen゜(ゴエン)設立。
これまでの主な仕事に日産自動車「NOTE」、DIC企業広告、三菱地所「想像力会議」などの広告の他、Mr.Childrenや坂本美雨などアーティストのアートワークも担当し、最近ではMr.Childrenのニューアルバム「SUPERMARKET FANTASY」を制作。
環境問題への関心も高く、ap bankとの活動を積極的に展開し、その一環として06年6月、東京・神宮前に環境コンシャスを提案する複合ショップとしてオープンした「kurkku」のアートディレクション、また環境と欲望をテーマにした番組「ネオコラ」の企画も担当した。2007年にはauの「ケータイがケータイし忘れていたもの展」にて新コンセプト機種「sorato」「ヒトカ」を発表。
著書として「GIONGO GITAIGO J”ISHO」や「HAPPY NEWS」など、数々の書籍を企画、装丁。
また、こどもへの関心も高く、育児がテーマの岩波書店「育育児典」のアートディレクションではグッドデザイン賞受賞。定期的にこども達のワークショップ「ちびgoen」を開催するなど、現在、広告やデザインという枠を超えて活躍中。
史上最年少東京ADC会員。N.Y.ADC 賞(2002、2005)、ONE SHOW ゴールド(2003、2005)同ブロンズ(2005)、朝日広告賞、新聞朝日広告賞、JR 東日本ポスターグランプリ(2002、2004)アジア太平洋広告祭ゴールド、東京ADC賞(2002、2005)、JAGDA 新人賞(2004)他受賞多数。



ぎおんごぎたいごじしょ


NotSame.

クリエイターからクリエイターへ。紹介されたクリエイターにインタビューをし、またその紹介をたどる。数珠繋ぎのように尋ねていく連載企画。「NotSame.」では、「つながり」に焦点を当て、彼らのパーソナリティに迫ります。

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