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FILE.018 (01/30, 2009) RADIOHEADライブ映像が作る虹 - WOWOW + Bascule

2008年10月、実に4年半ぶりとなるRADIOHEADの来日ツアーが行われた。そのライブの感動が今もなお心から離れない人、また惜しくも足を運べなかった人はWOWOWのプロモーション・サイト「12CAMS,CREATE YOUR RAINBOW」を訪れてほしい。そこには、あの熱気と興奮があふれるほど詰め込まれている。今、注目のWeb制作会社Bascule(バスキュール)とのタッグにより制作された本作は、さいたまスーパーアリーナ公演にて収録された番組制作用の12カメラ素材を、Webサイト上でユーザーが自由にスイッチングして楽しめるというインタラクティブ・コンテンツだ。WOWOW制作局音楽部の前田裕介氏、そしてBasculeよりディレクターの原ノブオ氏、ディレクションと技術面を担当した馬場鑑平氏に、テレビとWebを横断するプロモーション思案や制作背景について話を伺った。

Text:Nahoko Emi

「面白い会社があるんです」と打診しました
─「12CAMS,CREATE YOUR RAINBOW」は放送と通信の垣根を越えたコラボレーション・プロジェクトであるということ、そしてユーザー参加型のインタラクティブ・コンテンツであることなど、現代のコンテンツ制作を語る上で重要な作品になると思います。しかし何よりも、アルバム最新作の無料配信を行うなど先進的なRADIOHEADのイメージをさらに牽引するような本当にワクワクするコンテンツだと感銘を受けました。まずはプロジェクトスタートの経緯から教えてください。
前田 以前は番組制作ではなくWeb制作の部署に在籍していたのですが、そこでFUJI ROCK FESTIVALの会場の様子をリアルタイムで配信するコンテンツなどをBasculeさんと一緒に制作していました。彼らとは長い付き合いですね。今回はRADIOHEADの来日があるという話を聞いて、Basculeを思い浮かべつつアーティスト側に「Webのプロモーションで面白いことをやりませんか? 面白い会社があるんです」と打診したんです。その提案を面白がってくれたので、Basculeの原さんに連絡しました。その際にはコンテンツのディティールまでは詰まっていなかったのですが、複数台のカメラをスイッチングしたいというのは何となく頭の中にありました。放送の現場にいると、毎回十数台のカメラを使って収録した素材を編集して放送するのですが、使われていない部分がもったいないと感じていたんです。
 2008年4月くらいにそのお話を聞いたと思いますが、前田さんとのプロジェクトは「放送でできない部分をWebでやる」というチャレンジが多いです。FUJI ROCK FESTIVALで行ったようなリアルタイム配信は、テレビなら生放送すればいいことですよね。でも、テレビでは踊っているお客さんの映像をひたすら映すことはできないじゃないですか。一方でWebではそういったアプローチも「今、雨降ってきたんだ」と、臨場感として楽しめるわけです。そういった新しいアプローチを毎回模索していることもあり、今回のRADIOHEADのライブ映像における新しい試みとは何だろうとプレッシャーはありました。
前田 当初のイメージはあくまでも「ツール」っぽいものだったのですが、Basculeさんはどちらかというとアートよりのインタラクティブな方向性で考えてくれました。まず提案してくれたのが、映像の色によってドットの動きが変わり、それをグルグルと回せるような仕組みの表現でした。
 初めに伺った話だと、VJソフト的なものを作りたいということだったんですね。でも単純にアプリっぽいものを作るだけだと、誰も喜ばないでしょうと。
前田 スイッチングというのは僕らのようなコンテンツにかかわっている人間は楽しめると思うのですが、普通の人たちがアクションを起こしてくれるのか不安な部分もあり、スイッチングというところから一回離れて考えてみたんです。ただ、ドットで表現する案は、例えばアーティストへの提案にしても見せたら終わりで、一緒にやりましょうという感じがしないと思いNGとしました。僕ら制作側が突っ走り過ぎてしまって、エンドユーザーに対しても「素敵ですね」で終わってしまうのではないかと思ったんです。それに僕らの作品の中にRADIOHEADがいる形で、それはちょっと違うのではないかと。それで、当初のスイッチングのプランに立ち戻ってやってみようということになりました。
スイッチングから離れ、アーティスティックな表現を考慮した初期のモックアップ。映像の色によってドットの動きが変わり、ユーザーは映像自体をグルグルと回せるようになっている。NGを出すにはもったいないほどのクオリティだ
最善のクリエイティブを導くフラットな関係
馬場 スイッチングに立ち戻ったのが9月くらいの話で、そこからは当初のプランを洗練させていくことが一番いいということになりました。
 結局は「作品として素敵でも、コンテンツとしてはどうなのか?」というところですよね。いろいろ話をしている中で、「それでは面白いコンテンツって何だ?」と考えたときに、「すべてはRADIOHEADでしょう」と。RADIOHEADを好きな人がRADIOHEADを楽しめなくては意味が無く、アートにし過ぎてもいけないと考え直したんです。
前田 カメラ十数台分の素材があるわけだから、それを丁寧に見せてあげればいいのではという結論になったんですね。放送は編集されたものしか見られないですし、ライブに行っても自分の席から見たRADIOHEADしか知らない。だからWebでは、素材をストレス無く見ることができればもっと楽しめるのではないかと思いました。
―12カメラをスイッチングできるコンテンツだと主軸が決定した後は、どのように作業が進んだのですか?
前田 別のアーティストの素材でモックアップを制作してもらいました。
こちらも完成版にお目見えすることは無かったが、インターフェースの表現を考えたモックアップ。選択した画面が大きくなるなど動きの面白さを追求している
馬場 技術面では12個のストリーミング映像を同時に流して切り替えるわけですが、今回はライブを追体験してもらいたいという趣旨がメインなので、途中で映像が止まらないことを一番に考慮しました。読み込みのバッファリング部分は、音だけを最初に読み込んでライブの臨場感として演出しました。ただこの時点で、「インターフェースとしてはシンプル過ぎるのでは?」という不安がありました。ただ映像を出すだけでいいのか、もう少し仕込む必要があるのではないかと。今回は機能がシンプルな分、UIは吟味を尽くす必要があり、可能な限りスタディを重ねることが重要だと考えていました。それで選択するサブ画面自体に動きを持たせるなどインターフェースが異なるものを何点か提案しました。
前田 ただ、面白さは増しても機能性が失われているのではと感じ、インターフェースが大きく動くギミックにはNGを出しました。何か足りないと膨らませたものの、結局いいコンテンツを丁寧に見せようという当初の軸に戻ったような気がします。クリエイターさんはどうしても尖ってしまうんですよね。一方で発注側は普通のアイディアしか浮かばない。ここで気持ちのキャッチボールができればいいんですよね。どちらかが押し付けてしまうと、ただのつまらないサイトか、ただの尖ったサイトになってしまうんです。僕がBasculeさんにお願いするのは、そのキャッチボールの部分がフラットだと思えるからです。「ちょっと違うのでは?」と意見をしたときに、ただ自分のアイディアを押し通すために理屈を重ねるのではなくて、「では、こうしましょう」とフラットな関係が築けるんです。
左から前田裕介氏(WOWOW)、原ノブオ氏(Bascule) 馬場鑑平氏(Bascule)

「姿勢」を見せられるようなコンテンツを作りたい
―ユーザーが選んだ画像に指定されている色が、虹のように連なる「RAINBOWS」の画面がありますね。この部分はBasculeさんの提案ですか?
 はい、そうですね。いろいろなインターフェースを考えたあげく、結果的に一番ベーシックなものになったわけですが、そこからさらにユーザーの「選んでいる」感じ、そして選んだものの痕跡をどう表現しようという話になりました。
馬場 ユーザーの一人一人が勝手にスイッチングをしているだけでは、Webコンテンツとしてのシメが無いと感じました。一人が行っていることを、みんなで共有できる何かが必要だと。
 「RAINBOWS」画面は、ユーザーとしてはアーティストに対してメッセージを出せている気持ちになれると思うんですよね。一人の編集作業の結果をそのまま見せるのではなくて、みんなで作った「虹」を表現したほうが盛り上がるのではという狙いがありました。ただ、アーティストがアルバムの「イン・レインボウズ」というタイトルにどのような思いを込めているのかを気にしてはいました。ツアー中だったのでRADIOHEADに直接話を聞くことはできなかったのですが、ユーザーが作り上げたコンテンツのイメージが、アーティストの方向性と異ならないよう配慮しました。最終的にはそこに大きなズレは無かったとのことだったので、良かったですね。
前田 アーティストの意向という本質が置いてきぼりになるのは嫌だと思っていました。そこにズレがあれば「それは制作者のイメージでしょう」となってしまうわけですから。その辺りは大丈夫だったので良かったですね。実はサイトのコンセプトもエコ的なものにしようかなど幾つか候補はあったんですね。そういった魂の部分をどういうものにしようかと話している中で、これは正解だなと思える形に落とし込まれた気がします。
―ライブ映像ということで音のクオリティも重要だと思いますが、どのように考えられていましたか?
馬場 フリーで配布するものなので高音質になり過ぎてもいけないだろうという配慮もありましたが、高音質だとダウンロードに時間がかかりすぎ、圧縮し過ぎるとライブ感が損なわれてしまうという狭間でのバランスを考えました。ちなみに収録当日はライブ会場で何万人というお客さんを見ていたのですが、こういう人たちがRADIOHEADを好きで見ているんだ。彼らが喜んで見てくれるものにたどり着けたら成功だな、と思ってました。
前田 あくまでもプロモーション・サイトなので、ここで完結してしまっても駄目なんですね。
 プロモーション・サイトとしては「番組を見てください」と宣伝するより は、「姿勢」を見せられるようなコンテンツを作りたいと思っていました。さらにサイトでの体感時間を長くさせたいという思いもありました。見て終わりなのではなく、何かしらのアクションを起こしながら見ることでユーザーの記憶にも残ると思うんですね。
前田 Webが発展してさまざまなことができるようになったはずなのに、まだまだそのポテンシャルを出し切ったコンテンツは少ないと思います。その理由の一つには、アーティスト側の理解という問題も大きいと思います。今回もRADIOHEADというアーティストの理解があり、いい素材を使えたから実現できたことだと思います。そして最終的に、放送とライブ会場のちょうど間となるようなコンテンツに仕上がりました。放送ではプロが編集したものを鑑賞するわけですが、ライブに行ったらジョニー(グリーンウッド)ばかりをずっと見ている人もいるだろうし、無意識のうちにフォーカスをしぼって見ていますよね。それを疑似体験でき、コンテンツを作り上げることにユーザーが参加できる面白さがありました。今回のマルチアングルのスイッチング・コンテンツを「マルチ・パースペクティブ・ウェブ・ブロードキャスト・システム」と冗談半分で名付けたのですが、今後格闘技やサッカーの素材で使用しても面白いでしょうし、ほかのアーティストでも実現できたら楽しいですね。
12カメラの画面にはそれぞれ色が設定され、スイッチングの軌跡をタイムラインの色変化で表現している。他ユーザーの情報がまとめられた一覧ページはまるで虹のように鮮やか


WOWOW + Bascule
WOWOW + Bascule

WEBSITE: http://www.wowow.co.jp/music/radiohead/special/

「12CAMS, CREATE YOUR RAINBOW」

RADIOHEADの来日ツアー放映のための番組プロモーション・サイト。さいたまスーパーアリーナで番組用に収録された12カメラ・マルチアングルの素材を使用し、ユーザーが自由にスイッチングして繋ぎ合わせることができるというもの。スイッチングの軌跡はタイムラインの色変化で表現し、他ユーザーの情報がまとめられた一覧ページに虹のような画面が現れる。

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Producer: 朴正義(Bascule)、前田裕介(WOWOW)
Supervisor: 原ノブオ(Bascule)
Director,Technical Director: 馬場鑑平(Bascule)
Art Director: 本瀬智美(Bascule)
Special Thanks: 亀田剛, 加藤朋志(Space39℃)


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