moonlinx

next creation and communication moonlinx magazine

HOME

  • HEADLINE
  • SELECTED EVENTS
  • SPECIAL ISSUE
  • INTERVIEW
  • VISUAL FEATURE
  • REVIEW & RECORD

INTERVIEW

+ART

  • ←
  • ↑
  • →

FILE.023 (06/26, 2009) ウェブ meets ミュージック / 田中耕一郎 - 田中耕一郎

「映画音楽の歴史に数々の巨匠が名を連ねてきたように、ウェブサイトにおける音楽史が、既に刻まれ始めているのではないか」。そう感じたことが、今回のインタビューのきっかけだ。かつてウェブサイトで使用される音楽と言えば、テレビCMの流用か、訪れた途端に「OFF!」としたくなるようなクオリティのもの。インフラの未熟さ故のことだろうが、そのメディアに特化した音楽として楽しめるものは少なかった。しかし、iTunesの普及によってユーザーサイドのインフラも徐々に整えられ、ウェブサイトで音楽を楽しむための土壌が固められたように思う。そして、冒頭の可能性を強く感じさせたクリエイターの登場が、「UNIQLOCK」でも知られるクリエイティブ・ディレクター、田中耕一郎氏だ。映像とオリジナルの音楽を対等に扱ったその身体的な表現で数々の広告賞を総ナメにした氏に、このワクワクするような音楽の可能性を聞いてみることにしよう。

Text:Nahoko Emi

新しいウェブの表現には、音楽が決定的に重要
─今回はウェブ構築の中にある「音楽」の可能性について、お話を伺いたく思っています。というのも、ご存知の通り現在の音楽業界は既存パッケージメディア市場の縮小という点で不安を抱えています。一方で、田中さんがディレクションを手掛けている「UNIQLOCK」「UNIQLO CALENDER」をはじめ、クオリティの高い音楽を取り入れたウェブサイトが見られるようになりました。ウェブサイト構築において、ビジュアル表現に遅れながらも音楽表現の可能性が明示化されてきたように思います。制作に音楽を取り入れることが多いのは、なぜですか?
新しいウェブの表現を作るためには、音楽が決定的に重要だと思っているからです。僕が今まで影響を受けてきた音楽は、主に映画音楽です。「パリ、テキサス」はライ・クーダーのスライドギターが無ければ成立しない。「バグダッド・カフェ」だって、「死刑台のエレベーター」のマイルス・デイヴィスだってそうですし。映画を音楽で覚えているんですね。このように映像を圧倒的にエモーショナルにするものとして音楽の力を体験してきたので、ウェブというビジュアル・コミュニケーションを作る上でも、その体験を生かしたいと思っています。
─映画は、映画館という音響設備が整った中で体験することを前提に音楽が作られます。一方で、ウェブはユーザーに環境が依存しますが、制作のインフラに加え、平均的にユーザーの視聴環境が向上してきたのでしょうか?
もちろんコンピューターに内蔵されるスピーカーのクオリティは上がってきました。何よりiTunesの登場が大きいと思うのですが、コンピューターにスピーカーをつないで音楽を再生する人が増えましたね。ただ、環境がどうのこうのというより、そこで良い音が流れていれば、良い環境で聴きたいと思うはずなんです。
─ウェブでは、まだビジュアル表現と音楽表現が制作上対等ではないように思います。
具体的な例で言えば、プロジェクトにおいて音楽にかけられる予算の配分はすごく低い。でも、僕の場合は予算の半分くらい音楽にかけてもいいと思うくらい大事です。なぜならば、映像で突破するよりも、音楽で突破する方が現在では新しい体験を生み出しやすいからです。だから音楽にもっと目を向けた方がいいですよね。テレビCMでは、15秒、30秒という枠組みがありますが、ウェブではそれが無いのですから。
─日本全国のさまざまなシーンをミニチュア的に切り取ったムービーが流れる「UNIQLO CALENDER」が6月初旬より公開され、話題となっています。音楽では、FPMこと田中知之さんとサキソフォニストの清水靖晃さんのタッグによるリスト「愛の夢」が、オリジナル楽曲として使われていますね。
田中さんはユニクロのプロジェクトではお馴染みですが、清水さんの起用は?
田中さんが提案してくれました。田中さんは映像に音楽をぶつけるとどうなるかを分かっているので、僕はほぼノーディレクション。上がってきた曲を映像に合わせたら、やはりすごくしっくりきましたね。さらに、曲の小節に合わせて映像の切り替えが合うように編集し直しました。清水さんのサックスが流れることによって、空の映像が圧倒的に気持ちよくなったんです。町や電車や車の動き、そのエナジーが小さな動きとして映っている。その一方で空が幽玄に流れていて。サックスの響きの気持ちよさがあって、初めて成立したものだと思います。
2009年6月初旬より公開されたユニクロのウェブキャンペーン「UNIQLO CALENDER」。ミニチュア的に切り取られた日本都市の映像が、FPM+清水靖晃の音楽に乗って永遠と繰り返される。田中氏はクリエイティブ・ディレクションを担当。
「UNIQLO CALENDER」制作風景。まるでミニチュアのように見える風景は、実際に日本各地で撮影したもの(!)。
システムと音楽の橋渡しをできる人がキーマン
─音楽は、どのような形で受け取るのですか?
まず、ウェブ上で複数の音楽ファイルをループ音楽として流し続けることを前提にしています。そこで、田中さんと、技術的な再生条件(尺/データ量等)を相談した上で、楽曲を制作していただきました。出来上がった楽曲は、複数の音楽ファイルの分割された形で受け取ります。例えば「1・2・3」の3ファイルをもらう場合は、「1・2・3」、「2・3・2・3」、などとループ再生する順番の指示を田中さんからいただきます。そこから実際に音楽を組み込んで、サイトのデモを田中さんにお戻して調整してもらうという過程を何度か繰り返します。CDでは音楽を流す順番は決まっているけれど、ウェブでは再生する順番もプログラミングできるので、同じ音源でも再生方法で聴こえ方が変わってきますよね。田中さんは、そういったウェブならではの再生方法を意識して楽曲づくりに取り組んでいただけるので、とても刺激を受けます。
─映像も音楽もクオリティの高いものと考えると、データサイズの苦労はないのですか?
それは、毎回すごく考えます。「UNIQLO CALENDER」では、「正方形」が解決策になっています。映像を正方形にすることで、4:3や16:9の画角に比べて、映像のデータ量が大幅に軽減できたんですね。でも、データを軽減するという事情で正方形にするということだと解決にはなりません。今回は、日本の日常に溶込んだ風景を箱庭的に切り取るという視点があるから正方形というフォーマットが合っていると考えたわけです。また、映像や天気情報といった要素を正方形で組み合わせることで、ウェブサイトとしてもブログパーツとしても新しい見え方になるし、正方形モジュールの組み合わせるという作法が、ユニクロに合っている。そういった複合的な視点の組み合わせた結果の判断なんですね。
─ほかに最近のプロジェクトとしては、テイ・トウワさんの音楽が使われた「iida calling」がありますね。携帯で電話をかけて自分の声を録音し、その声が自動的にリミックスされてオリジナルのブログパーツとして手に入るというプロジェクトに、とても興味を覚えました。こちらでも音楽や音声を使った新しい試みをされていますが、プロジェクトの発端を教えてください。
ブランド全体のクリエイティブ・ディレクションをしているgroundの高松(聡)さんから、インタラクティブ・キャンペーンのプランニング・ディレクションをしてほしいとオファーをいただきました。そこでまず、携帯はメディアですから、それを使った何かができないかと考えました。携帯の一番本質的なファンクションは電話をかけること。そのワンコールで、何かが作られて戻ってくるような仕組みを考えました。その仕組みに合っているものは、やはり音声ではないかと。音声を入れるとミックスされて自分の着信音になったり、ブログパーツとして広がったりするという、携帯ならではのコミュニケーション・ツールとして「iida calling」を提案しました。
─録音した声が自動的にリミックスされるという仕組みは、どのように開発していったのですか?
まず音声を解析し、自動的に音楽ファイルにするというサーバーサイドのシステムが必要でした。僕はそういった技術面に詳しくないので、システムを理解していることはもちろんですが、その仕組みにどんな音を乗せたら楽曲として成立するのかを理解しているサウンド・エンジニア的な人が必要でした。つまり、サーバーサイドのシステムと音楽的な分野の橋渡しをできる人ですね。そこでノウハウを熟知した澤井妙治さんという方にお願いすることになったのですが、やはり彼がキーマンとなりました。
デザイン性を重視したauの新ブランド、iidaのキャンペーン・サイト「iida calling」。テイ・トウワが楽曲提供。ユーザーが電話をかけて自分の声を録音すると、自動的にリミックスされてオリジナル・トラックが完成する。
言葉ではなく、ビジュアルと音楽で何が表現できるか
─システムを担当されたという澤井さんとは、初めてのお仕事ですか?
そうです。サイト構築のディレクションを担当したイメージソースの小池(博史)さんに紹介していただきました。今回は音楽のソフトを作っているようなものですし、しかもユーザーの声という変数がある。それもスタジオで録音したものではなくて、あくまでも携帯での音質ということ。さらに歌うというよりは「話す」という状況があります。そういった流れの上で、どういった方向軸であれば楽曲として聴けるものになるのか、澤井さんを含めみんなで随分考えました。
─特に難しかった点は?
電話をかけて録音した音質を前提にしたときに、クオリティがどこまで上がるのか。さらにノイズ・リダクションをして、ピッチを合わせて音質を変換する過程で、どのようにユーザーの個性を保っていくのか。モバイル・ミュージックとしての落とし所を探っていった点が大変でした。実際にアウトプットとしての音質が良くなっても、敷居が上がって参加してもらえなければ意味が無い。参加するという接点の作り方から、どのような曲になれば自分で聴くだけではなく、広げたくなるのか。音声というコアなアイディアから、コミュニケーションまでどのように広げていくのかと、いろいろ考えました。
─巷では、iPhone用アプリとして、入力された音楽に対してシステム的に音楽が生成されるRjDjのようなツールも話題になりました。携帯をプラットフォームにして、音楽が進化しているように思います。
特に若い世代には、携帯は音楽メディアだというインサイトがあるということですね。電話をかけるだけではなく、音楽をダウンロードしたり聴いたりすることが普通になっている。そんな状況を見て、何が一番シンプルで、一番新しいのかを考えながら作っていきました。コミュニケーション・ツールとしての音楽は、「遊ばれ上手」な感じが大事なんです。音質が良くても、それを誰かにメールで送りたいと思ってもらえなければ広がらない。だらか、かっこいい曲を作りたいのではなくて、使われる曲を作りたいと思っています。
─「UNIQLO CALENDER」「iida calling」ともに、期待を裏切らないコンテンツとして、とても楽しませていただきました。
ウェブでは、まだ誰もやったことのないことをやることに価値があると、僕は思っています。そういう「新しさ」が起爆剤になって広がっていくことが多いので、常に「その新しさは何か」と考えながら、制作しています。
─ちなみに、クリエイティブ界において権威あるアワード、D&AD賞にノミネートされた「UNIQLO DRY IN MOTION」では、スティーブ・ライヒの楽曲を使用されていましたね。
僕はランニングする時に、よくライヒを聴くんですが、なぜかというと、体が覚醒していく感じがあるんですね。彼の音楽には身体に働きかける麻薬性があると思います。DRY IN MOTIONでもスローモーションで再生される身体の動きに、ライヒのドラミングサウンドを重ねることで、観る側の身体が反応するような作用を引き出す事を意識しました。音楽が持っている感覚はとてもユニバーサルで、簡単に言葉を超えて享受できるものです。言葉ではなくて、ビジュアルと音楽で何が表現できるかということが、僕の追いかけているテーマです。それをウェブというメディアに乗せると、フレッシュにできると信じているところがあるんです。
田中耕一郎
Koichiro Tanaka

WEBSITE: http://www.projector.jp

2004年、projetor incを設立。クリエイティブ・ディレクションを手掛けたユニクロのウェブキャンペーン「UNIQLOCK」で、世界的権威のある広告賞「One Show」をはじめ、「東京インタラクティブ・アワード」「ニューヨークADC」など各賞を独占。ユーザーの心にダイレクトに響く「身体的なウェブ表現」が高く評価されている。

UNIQLO CALENDAR
iida calling


SPECIAL ISSUE

季刊を基本とした moonlinx の特集

もっと見る

+ART

文化の背景と未来を読み取るロングインタビュー

もっと見る

NotSame.

クリエイターによる紹介制リレーインタビュー

もっと見る

VISUAL FEATURE

文化や社会をきりとるビジュアル記事

もっと見る

REVIEW & RECORD

クリエイター達による商品レコメンド

もっと見る

EDITOR'S NOTE

編集スタッフがつづる、編集/制作裏話、日常

もっと見る