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FILE.026 (09/30, 2009) 今、雑誌を作る意味 / 蜂賀亨 - 蜂賀亨

「あの雑誌が休刊!」という知らせは、もはや驚きも薄れてしまうほどに日常茶飯だ。しかし、海外雑誌のコレクション展に足を運べば、多くの人が集まっているのを目にする。友達の家に遊びに行けば、本棚に「その人らしいな」と思わせる雑誌が並んでいる(もしくは床に散らかっている)。そもそも書店には、何時間でも立ち読みできてしまいそうなほど多数の雑誌がズラリと並んでいる。確かに広告費のシェアはガクンと下がり、ビジネスとしては過酷な時代なのかもしれない。でも、「モノ作り」という一つのクリエイティブ活動としての視点では、思ったよりも多くの人に雑誌は愛されているのではないかと、つい思ってしまうのだ。そこで、昨今の状況下にもかかわらず、クリエイティブ・シーンにおいて勢いを伸ばしている雑誌「QUOTATION」の編集長・蜂賀亨氏に伺った。「本当に、雑誌は無くなってしまうものなのですか?」と。

Text:Nahoko Emi

できるだけ「デザインを読ませたい」
─各ジャンルの上位シェアを競っていた雑誌が、次々と休刊になっています。「+81」「QUOTATION」をはじめ、長年編集長として雑誌に携わっている蜂賀さんは、どのように感じられていますか?
最近、「雑誌の未来は!?」などと言い過ぎのような気がしているんですよね。あまり肩肘張らなくてもいいのではないかと。僕は、「雑誌は無くなるかもしれない」と言っているくらいなので、紙にこだわることは全然ありません。インターネットも紙もどちらも否定することはないし、どっちでもいいと思っています。でも、紙だから伝わっていることもある。極論を言ってしまうと、なるようにしかならないかなと思っています。雑誌文化についていろいろ言われていますが、多くは部外者の論議になっているような気がしていて。実際に作っている編集者はもちろん、デザイナーにせよライターにせよ、作り手側は誰もが真剣にやっていて、まわりから、ああだこうだといわれる以前に当然いろいろと考えているわけで。読者だって気に入れば買うし、欲しくなければ買わない。面白い雑誌もあれば、そうでない雑誌もある。休刊する雑誌もあれば、創刊する雑誌もある。あまりにも雑誌、雑誌と騒ぎ過ぎかなという気もしています。
─確かに休刊のニュースばかりが取り上げられて、実は新たに生まれているシーンやムーブメントを、見過ごしてしまっている気もしています。
今、メディアは、雑誌やウェブ、イベントなどいろいろなスタイルで表現が可能になってきているし、マーケットやビジネス・モデルも変化してきて、昔の方法論が通用しなくなってきてもいる。それは逆に今だったら何でもできるかもしれないってことだと思うんですね。焼け野原状態に近いというか。だから、「こんな雑誌作っちゃいました」と、見たことがないような面白いことができるような気もします。何か新しいものを作れるチャンスかもしれないし。1990年代の僕がインディーズ・マガジンを出していたころも、少し同じような時代だったんです。DTPという言葉が出てきて、音楽や雑誌などのカルチャー・シーンやインディーズ・シーンが盛り上がっていた時期ですね。
今は、同じインディペンデントでも、よりコミュニティ化されてきているというか。かつては対メジャー雑誌、対大手を意識したインディーズだったのが、最近ではパーソナルな世界観を追求しているZINEのように、本当の意味でのインディペンデントなスタイルのものが増えてきているのではないでしょうか。その辺が今後どうなるかは気になります。
─そんな焼け野原状態の時代に、蜂賀さんが企画された季刊誌「QUOTATION」は、2008年の創刊から約1年が経ちました。そもそもどのようなコンセプトで立ち上げられたのですか?
ここ5〜6年は、デザインという言葉が簡単に使われるデザイン・ブームになっていますね。でも、その中でもクリエイティブに対して真剣なクリエイターや、心意気を持ったライターさんもいるわけです。そういった人たちが発表をする機会や紹介するメディアが無いと思っていて。その場として、できるだけ「デザインを読ませたい」と思い創刊しました。さらに、コストをかけずに、できるだけ出ていない情報やほかでは活躍していないライターの記事を載せるということ。「これが売れているから、特集を組みましょう。有名だから取り上げましょう」ではなくて、「他でやっているから止めましょう」というような、最近の多くの雑誌とは逆の発想です。
2008年10月に蜂賀氏が創刊させた季刊誌「QUOTATION(クォーテーション)」http://www.quotation.jp/
楽しんで作っているものは、読み手にも伝わる
─「QUOTATION」は、3号目から記事の一部はバイリンガルとなっていますが、その理由は?
ある程度は海外マーケットも意識していますが。まず、海外の人に間違った情報を伝えたくないからです。英語でインタビューをして、それを訳して日本語だけで掲載してしまうと、間違った情報も伝わってしまうことがあるじゃないですか。それが嫌だったんです。きちんと原稿を本人に見せて確認してもらうという平等性を証明するために、バイリンガルにしました。一方で、コラムは書き手の個人名を出して日本語の記事を載せていますが、それは書き手の思いを一番に考えたいからです。日本語の原稿を英語に翻訳すると、平等性という話以前にライターの原稿が死ぬじゃないですか。書き手の個性を尊重して敬意を払うと、バイリンガルにする必要が無いんです。どちらに重点を置くかで、バイリンガルなのか日本語だけなのかも検討する。僕に限らず、どの雑誌も編集長であればきっといろいろと考えて真剣に作っていると思うのですが、ただ、そうやってまじめにつくられている雑誌と、タイアップだけの雑誌との違いがなかなか伝わりにくいのも事実ですよね。書店では同じ雑誌コーナーに並ぶわけですから。どこでその違いをみせられるか、編集長の手腕にかかってくるのではないでしょうか。
─5号目となる次号は、デザイン・リニューアルされると伺ったのですが。
紙質やサイズ、内容も含めて少し変えようかと思っています。僕も読者の一人なわけですが、僕も含めて読者って飽きやすいじゃないですか。特にデザイン好きは、常に刺激を求める人が多いから、書籍はまた違いますが、ファッション性の高い雑誌にはすぐに次の何かを求めてしまうんですね。作り手としても、常に刺激を与えたいし、作り続けていきたいと思っています。本当は創刊時にも毎号変えたいと言っていたのですが、さすがに出版社の方に断られました(笑)。
─最近の雑誌でチェックされているものはありますか?
本屋さんに行って気になったものは買いますが、昔のように定期購読したり、連続して買うものは少なくなりました。内容や特集が面白ければもちろん買いますけど。デザインだけで見たときには最近は毎号必ず買っているものはあまり無いです。ロンドンのメンズ・ファッション誌「AnOtherMan(アナザー・マン)」や、「Arena Homme +」という雑誌はタイポグラフィやデザインが毎回変わるので、気になります。日本ってそういうものが無いじゃないですか。
─確かにそうですね。それに、書店には似たような雑誌が並んでいますね。
売れている雑誌に似ていないと、広告が取れないというのは昔から言われていることですね。
「原稿の平等性」を証明するために、バイリンガルになっている誌面。
見ても、作っても面白いものを追い続けていきたい
─雑誌以外に、最近のウェブマガジンで気になるものはありますか?
面白いサイトはまだそんなに無いかもしれないですね。海外では少しずつ増えてきているけれど、デザイン系のサイトですごく楽しそうに見えるものってそんなに無い。楽しんで作っているものって、それが読み手にも伝わると思います。そういう楽しさが伝わってくるサイトはまだあまり無いような気がしていて。どこか事務的。ウェブマガジンで楽しいものが出てきたら、また状況は変わるかもしれないと思います。
─海外で面白いと思われるウェブマガジンは?
やはり情報中心のサイトですね。ユーザーとして、情報は一つにまとまっていてほしいんです。例えば展覧会の情報など、どのサイトを見ても同じ情報が載っている。それだったら一つでいいのではと思うんですよ。本当に欲しい情報ってそんなに無いので。本当に欲しい情報があるときには、一生懸命探しますから。そういった点ではウェブってとても便利ですよね。
─ウェブのお話が出ましたが、例えばCDが出てきてアナログ・レコードの役割がちょっと変わったように、新しい何かが生まれることで既存媒体の役割が変わることがありますね。ウェブが出てきて、雑誌の役割は変わるのでしょうか?
基本的に、「対ウェブ」ではないと思っています。結局、目的はメディアの差ではなくて、目的のために何をするかということだけじゃないかという気がします。僕はウェブより雑誌の方が好きだしやりやすいから、雑誌で伝えていきたい。金儲けのためにというビジネス面だけで考えれば、正直言って雑誌にあまり明るい未来はないかもしれないし。でも、「伝える、表現する」という点で言えば、ウェブも何も関係なく残っていくと思うんですよ。ただ、紙とモニターでは、伝わり方は変わりますね。これは音楽も一緒だと思いますが、MP3だろうがアナログだろうが、作り手としては媒体を選べるわけじゃないですか。アナログが好きな人に伝えるのであれば、それが必要になるわけです。雑誌が好きな人に向けて発信したいときは、雑誌が一番役に立つメディアでしょう。だからウェブでもいいとは思っているのですが、今の段階ではフォントなど僕の好きなグラフィック面で伝えきれない部分や、自身の技術的な問題もある。ウェブをやるなら、お店を作る方が伝えやすいかもしれない。
─Amazon Kindleなども話題になっていますが、電子書籍や雑誌については積極的ですか?
基本的にはいいと思いますが、本屋さんが好きだったりもするので、好きな場所に置いてほしいとは考えてしまいます。同じような世界観を好きな人が、そこに集まってくると思うので。
─先ほど、何か伝えたいならば雑誌が一番やりやすいと伺いました。では、今一番伝えたいことは何ですか?
面白いものをもっと作ってほしい。それが一番伝えたいことかな。デザインでもアートでも雑誌作りでも、何か新しくて面白い表現をしたいという動機となってもらえればいいですね。
─最近、新しいムーブメントは生まれていると思いますか?
グラフィック・デザインで言えば、全体としてうまくなっている感じはありますが、90年代に中島英樹さんやタイクーングラフィックスが出てきたときのような、爆発的なパワーはまだ感じられないです。でも、次の何かが生まれそうって思いながら、ずっと待っているので、期待しています。僕だってのんびりとはしていられないと思っていますし。次を考えていかなければいけない。見ても面白くて、作っても面白いものを追い続けていきたいと思うので。
蜂賀亨
Toru Hachiga

WEBSITE: http://www.quotation.jp/

ピエブックスを経て、1997年にクリエイティブ・マガジン「+81」を創刊させる。11号まで編集長を務めた後、雑誌、DVD、ショップなどを複合的に展開する「GASプロジェクト」などを手掛ける。2008年、現在のクリエイティブ・シーンを縦断する季刊誌「QUOTATION」を創刊。最新号が10月27日に発売される。

http://www.hachiga.com


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