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FILE.030 (01/29, 2010) 思考のスイッチ / AOKI takamasa - AOKI takamasa

ダンスミュージック・シーンにおいてコンピュータで音楽を作ることが当たり前になった今、その機能性や利便性に依存することで有機的な匂いを失った音楽が増えている。国内外から高い評価を得るベルリン在住のアーティスト、AOKI takamasaの創作する楽曲がそれらと一線を画すのは、コンピュータをメインに用いながらもそこに土や樹、水といった自然物のテクスチャーがあるからだ。自らの描く理想世界に到達するための方法論を冷静に見つめ、音楽/写真と創作活動を続ける彼に、最新リミックス・アルバム「FRACTALIZED」のクリエイトの背景や、そのバックボーンにある思想を伺った。

Text: Sumiko Kodama

人間が自然に踊りたくなる「現象」を作りたい
─このたびリリースされるリミックス・アルバム「FRACTALIZED」は、2003年から2009年にかけて手掛けられた数々のアーティストの楽曲や、ご自身の楽曲のリミックスが収録されています。ご自身にとって本作の創作は、この7年を振り返るものだったのでしょうか?
いえ、自分としては作っているときは時間の感覚はなくて、常にひとつ前に学んだことを今作っているものに落とし込みたいというスタイルでやっているので、振り返るということはなかったですね。今回、セレクションするに当たって基準にしたのが、「09年の自分」だったんです。過去にいっぱいリミックスをやらせてもらったんですけど、正直、今の自分が聴いても「これは入れたい」と思うものがそれほど多くなかったんです。それじゃ曲が足りなかったので、じゃあ新しいものを入れようということで、HASYMOさんの「RESCUE」や坂本龍一さんの「composition 0919」を新たにリミックスさせてもらったり、またここ最近のライブ用にアレンジした自分の楽曲の未発表ミックスを入れることにしました。
─過去の作品にも、「09年の自分」の音があったんですね。
そうですね。当時は無意識だったんですけど──。今、僕が作品作りに求めているのは、スピーカーを介して空気を震わせて、人が踊りたくなる現象を作ることなんです。少し前、それこそSKETCH SHOWの「MARS」(03年)や、坂本龍一さんの「War&Peace」(05年)のリミックスをやっていた頃は、「音楽を作る」という範囲でものを考えてたんですけど。この2曲に関しては、知らず知らずと今言ったような概念がちゃんと音楽に落とし込まれていたんです。もちろん、08年にリリースした半野喜弘さんの「re-platform」のリミックスにも。時期的に言うと、「人が踊りたくなる現象を作る」という概念がクリアになったのが07年頃だったんですが。
─07年というと、パリに在住されていた頃でしょうか?
ベルリンに引っ越したのが08年2月だから、そうですね。その前から世界中いろいろライブで行かせてもらったり、いろんな分野の人と会ったりして受けた刺激、経験を通して、それまで漠然としていたものがどんどん明確になってきた、その結果です。
─すると07年以前と以降では、楽曲作りの方法論も変わったのでしょうか?
基本的にシンプルな素材で、物理現象を思わせる音を使いたいと思っています。音色一つひとつに関しても、できるだけそのままの電圧に近いものを──。僕はコンピュータで曲を作っていますけど、コンピュータの原動力は雷に代表される電圧なんですね。また音の存在感というのは電気の流れる量で決まるものなんですけど、90年代以降の大量生産の楽器や機材って、音質向上じゃなくて、コストダウンのために技術が注ぎ込まれているように感じるんですよ。
それこそ、使う銅線の量を減らすとか。そうじゃなくて、純粋に音が好きな人が志を持って作った機材、ハンドメイドのアナログシンセなんかを使って、できるだけ生に近い音を鳴らしたいんです。もちろん、コンピュータの演算処理の結果でできた音も使いますけど、それはあくまでスパイスとして、昔からある電圧そのもののオーガニックな温かさを曲に落とし込みたいんです。
─逆説的に言うと、大量生産の結果で出来た音楽では人は踊らないと?
いえ、人それぞれ欲しているものは違いますし、何においても答えはひとつではないと思うんですね。ただ、例えばリズムに関しても、自分が鳴らしたいのはデジタル的にキッチリした0・1・0・1という感じじゃなくて、0・0.2・1.5とか、自分のバイオリズムで気持ちいいと感じるタイミングなんですね。つまり、多くの人に理解してもらうために自分の表現を曲げるんじゃなくて、逆に自分をむき出しにすることでそれに共感できる人に理解してもらうというか。そういう、パーソナルなものが求められる時代になって来たんじゃないかなあと思いますね。
─創作の原点は非常にパーソナルなものなんですね。
もちろん自分のキャパシティ、受け入れ態勢を広げて、理解してもらえる幅を広げるというプロセスも大事にしているんですけど。あと、このアルバムに入れた自分の曲のリミックスに関しては、過去にライブでやったアレンジを落とし込むというスタイルなので、お客さんの反応が良かったところを強調したり、逆にライブだったらいいけど家で聞くにはちょっと派手だから押さえてみたりってことはしていますね。
近年は写真家としても活躍しているAOKIの写真作品。ブログMURMURにも多数掲載されている。Photos by AOKI copyrighted AOKI takamasa
世界が次のステップに進む鍵
─ただ、確かに画一的な大量生産品から、個のモノ作りの精神が反映されたプロダクツを求める層は増えている気がします。
たぶん、大量生産に行ってしまうのは情報に流された結果だと思うんです。特にテレビをはじめとする視覚情報。人間は判断基準の8割を視覚情報に頼ってしまうものだそうですから。でも、僕はどっちかというと目に見えないものに重きを置きたいと思っているんですね。それがこの「FRACTALIZED」というタイトルにも繋がるんですが、“フラクタル”という概念は海岸線や雪の結晶といった幾何学模様でよく知られてますよね。だけど実は、音にもフラクタルがあるんですよ。もっと言えば現存するすべての自然物に。音については、“フラクタル・ウェーブフォーム”という、始めもなければ終わりもない、永遠に流れ続ける音の波があるんですが、僕はそんな永久機関のようなリズムをずっと作りたかったんですよ。感性というスイッチを押された瞬間に、回り始めてループするような。
─リミックス・アルバムだからこそ、その着想が具現化できたという面もあるのでしょうか?
オリジナル楽曲はそれぞれ、作曲者の方々が心地いいと感じるリズムで作られているんですね。それはその方々が培ってきた美学であり、その人自身のバイオリズムであり。それを自分が心地いいと思うフラクタルなバイオリズムに落とし込むというのが僕にとってのリミックスという作業なんです。という意味でこのタイトルを付けたんですが、それはまた、「視覚情報もいいけど、聴覚も含めた目に見えないものにケアを置いてみるのもいいんじゃないでしょうか」という僕からの提案でもあります。
─ところで04年からパリ、08年から現在はベルリン在住と活動の拠点をヨーロッパにおいてから創作に変化はありましたか?
自分にとってヨーロッパに身を置くというのは、日本だと山の中に身を置くのに近いですね。言語や文字による情報に捕われにくい分、より物事の本質を感じられるようになった気がします。既成概念に縛られないというか。日本にいると看板の文字も理解できるし、街で流れてる音楽もすごい気になるからどうしても外部情報に意識が行っちゃうけれど。本質を感じるというのはいわば価値観の転換でもあり、それまで気にも留めなかったものがめっちゃカッコ良く見えたり、面白いなあと感じたりするようになることやと思うんです。音の選び方にしろ配置にしろ経験に基づくものだから、確実に自分の表現方法すべてに影響していると思います。
─ヨーロッパにいるからこそ、より自分の日本人性を感じることも?
ありますね。日本文化に色濃くみられる「押しつけよりも受け入れ」という思考は次の時代に行くための重要なステップになると思っています。
それはパリからベルリンに引っ越したときも感じたんですが、パリというのは歴史的にも今地球を覆う金融システムの中心地の一つであるから、とてもコンペティティブな雰囲気がまだ存在するように感じるんですね。だけど競争社会って、今の時代に合わなくなっているような感覚が自分の中にあって。競争の行き着く先は戦争ですから。まあ、あとは家賃がやけに高いというのもあって(笑)、ベルリンに引っ越したんですが。
─ベルリンも大都市ですが、パリほど競争的ではない?
もっとゆるいと言うか、「競争よりも共存」という文化が残っているように感じます。特に東側には温かい人が多いように感じますね。それは80年代末に共産主義と資本主義が混じり合うという究極の状態を経験し、苛酷な状況がずっと続いた結果、持つ人が持たざる人に分け与える「シェアの概念」が浸透した結果なんじゃないでしょうか。もちろんパリを否定してるわけじゃ全くなくて、大好きな部分もいっぱいあるんですけど。
─そんな「受け入れの精神」もまた、日本人的ですね。
本当、そうだと思うんですよ。僕の偏見かもしれないけど、西洋というのは自分の文化が一番という発想や、そのアピールが強いように感じる。結局それは、侵略の歴史が強く影響していると感じます。だけど日本の素晴らしさというのは異文化を受け入れながら、自国の文化も大切にする許容の深さ。いろんな文化のいい部分をハイブリッドして、自分たちなりに表現するというニュートラルな視点だと感じたんです。日本に住んでた頃には当たり前すぎてわからなかったことが、見えてくるようになりましたね。
─先ほどおっしゃった、デジタルとアナログの良い面を受け入れてよりいい創作を目指すというのもまた、発想は同じなのでしょうか?
そうですね。一貫性がないと言われるかもしれないけど、欲しいものを実現するためには何でも使いますよ、と。そこに一貫性を見出せばいいと思うんです。
インタビュー中のAOKI takamasa氏(c) Takafumi Takani
思考のスイッチを入れるのに、音楽は最適なツール
─近年は音楽と平行して、写真の活動も活発にされています。しかもデジタルではなく、フィルムにこだわっているとか。
06年頃から完全にフィルムのみで撮るようにななりました。それは音楽と同じで、演算処理の結果で映し出した画像よりも、フィルム写真の生の質感に神秘的なものを感じるからなんです。あと、デジタルだとバシバシ撮れるけどその瞬間に集中しているかというと──。フィルムだけで撮るようになってから、果たしてこれは本当に撮るべきなのか、この瞬間に自分は何を感じてるのかということに、もっと敏感になったんです。ただ、今はフィルムもデジタル技術のおかげでスキャニングすれば画像をいじれるようになったので、そこもまた両方の良さを利用する、まさに日本人的な発想ですね。
AOKI自身が撮影した「FRACTALIZED」のジャケット写真。
「よく行くベルリンの公園の中にあるカフェの屋根に羊が立っています。僕の中でこの羊はヨーロッパの金融支配における一般市民のメタファー。2010年からは、羊飼い=西洋の支配者層にコントロールされていた羊たちが上に立つ時代が来るでしょう、という思いを込めてこの写真を撮りました」(c) AOKI takamasa
中面に使われている写真。
「この人形を塗ったのは友だちの子ども。子どもって『やったらあかん』って言うことをするのが面白い。でも、そのあかんっていうのも大人が作った常識にすぎないんですよね。無造作に置かれた人形が、ぐたっと生きてるように見えるのも面白くて撮りました」(c) AOKI takamasa
─「FRACTALIZED」のジャケットや中面に使われている写真もご自身で撮ったものですが、音楽と写真、二つの創作の根底には同じ思想が流れているのでしょうか?
僕が創作活動をするのは、理想としている世界に近づきたいからなんです。戦争も競争も、搾取もなくて、お互いが個性をむき出しにして、お互いが尊重し合いながら、その相乗効果で生まれる文明。お金に価値を置くんじゃなくて、地球をよりよい場所にメンテナンスするという価値観を持った世界に住みたいとずっと思っているんです。
─誰もがその方がいいとわかっていながら、なかなか突破口が見つからない、非常に難しい問題ではありますが。
結局それは、情報に流されているからだと思うんですよ。もちろん僕がこういうことを言うのも情報ではあるけど、人間は人間を変えることはできないから、結局は一人ひとりが気づく必要があるんです。そんな思考のスイッチを入れるのに、音楽は最適なツールだと思うんです。自然に体に浸透して、体を動かしてしまうものだから。昔のミュージシャンも同じ理想を描いて歌詞を使って直接的に訴えたりしたけれど、それがその人に悲しい結末を生む事もあった。それは言語を介した直接的なメッセージだったからだと思うんです。だから僕は言語を飛び越えた何か──音楽や写真で、世界平和や人類の次のステップに加担できるような活動をしていきたいんです。
「友だちのDJが無造作に放ったレコードが、完璧に美しい配置になっていたので思わず撮ってしまった写真。宇宙の営みにおいて偶然というものは一切なく、すべての瞬間がスペシャルであるということを現したかった1枚です」
ジャケット写真をプリントしたTシャツも commmonsmartにて発売中。
AOKI takamasa
AOKI takamasa

WEBSITE: http://www.aokitakamasa.com/

1976年大阪府出身、ドイツ・ベルリン在住。01年に1stアルバム「SILICOM」をリリースし、コンピュータ/ソフトウェアベースの創作活動を中心に行う。イギリスBBCラジオ「One World」への楽曲提供(ビートルズ「i will」カヴァー)、YCAMでのコンテンポラリー・ダンサー/映像作家との共同制作など、国内外ともに高い評価を得ている。また写真誌「PhotoGRAPHICA」やファッション誌「装苑」でのポートレート撮影や、坂本龍一のヨーロッパライブの撮影を手掛けるなど、写真家としても活動の幅を広げている。


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