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FILE.029 (12/25, 2009) 次世代音楽シーン創出のヒント / 原雅明 - 原雅明

CDの売上げ減少やデジタル配信普及の影響を受け、従来のビジネスモデルが崩壊した音楽業界は、2009年末の現在もなお、ドラスティックな変化に晒されている。そんな閉塞的な状況のなか、著書『音楽から解き放たれるために——21世紀のサウンド・リサイクル』や、アートと音楽の新しいコラボイベント「into infinity」などを通して、音楽を個人でストックするだけではなく、みんなでシェアしてリサイクルすることを提案する音楽ライター&レーベルオーナーの原雅明氏に、これからの時代の音楽の楽しみ方、聴き続けるためのヒントを聞いた。

Text: Michi Tamura
Photo(Into Infinity Tokyo) :Ryosuke Kikuchi

音楽の現場から才能のある人が離れてしまう
─『音楽から解き放たれるために——21世紀のサウンド・リサイクル』では、日本の音楽業界の転換期だった90年代半ばから約15年間、原さんが現場で感じてきたことが書かれていて、非常に読み応えがありました。この本を書いたきっかけを教えて下さい。
1年ほど前にフィルムアート社の薮崎さんから依頼を受けました。レコード店の『CISCO』が実店舗を閉め、オンラインだけになるというニュースを知って書いた『ミュージック・マガジン』の短いコラムを、偶然彼女が目に留めたんです。音楽ライターとレーベルオーナーという両方の視点からみた音楽と音楽業界についての書き下ろし、それに今までの文章をまとめた本を書きませんかと提案されたのが始まりです。
─執筆前と後で、心境の変化はありましたか? 
ここ数年漠然と思っていたことが、本を書いたことでより自分の中ではっきりしました。僕が音楽ライターとして取り上げていた音楽(クラブ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックなど)は、あまり一般的なジャンルではないので、その音楽を知らない人が読んでも伝わる内容にしたいと思いました。商品が売れないとか、人が現場から離れていくとか、そんな現実は音楽業界に限ったことではないですよね。他の分野でもあることなので、結果的に他業界とも視点が重なる本になったと思います。
─同業者からの反応はどうでした?
結構辛辣なことも書いているせいか、今のところあまり反応ないですね(苦笑)。逆に音楽に関わりがあって、違う立場の人(レコード店のバイヤー、音楽以外のジャンルの雑誌編集者、DJ、ミュージシャンなど)から反応があって嬉しいです。周りを見ていると、レコード店のバイヤーも、音を作る人も、文章を書く人も、何かをプロデュースする人も、才能ある人がどんどん現場から離れてしまうんです。僕が影響を受けた人たちが、気がつくと現場からいなくなっていることが、ここ何年か増えてものすごく残念。そういう人たちに帰ってきてほしいと、僕が言うのもおこがましいですが「自分に何ができるのか?」という問いが、常に頭の隅にあります。今回の本がそんな人たちにとって、また音楽を聴き始めるきっかけになってくれればいいなと思いますね。
「into infinity」で実感。東京より札幌のほうがLAに近い!?
─「into infinity」は、LAの先進的ネットラジオ局「dublab(ダブラブ)」と、世界40カ国以上で採用されている、各国著作権法に準拠された創造性を得るためのインフラ「creative commons(クリエイティブコモンズ CC)」が始めた、アートと音楽の新しいコラボイベントです。原さんは日本でのプロデュースを担当されました。
dublabを始めとするLA音楽シーンとはここ数年繋がりがあって、音楽をリサイクルしていく姿勢とか、音楽家を再発見していく姿勢に共感しています。今回は、dublabに依頼されて日本で「into infinity」をプロデュースしました。アーティストには12インチ大の絵(円盤)、音楽家には8秒間のループ音源(8は無限を意味する)を無料で提供してもらったんです。ネット上では両者のランダムな組み合わせを楽しみ、イベントでは250枚以上の円盤の展示やライブ、ワークショップ、dublab関係者とのトークショーなどを行いました。作品の著作権は作者にありますが、自由にダウンロードできて商業目的でなければ改編も自由、どこに出しても構わないというのが作品提供の条件です。
ネットラジオ局dublab(ダブラブ)とcreative commons(クリエイティブコモンズ CCが)による、アートと音楽のコラボレーションプロジェクト「into infinity」。ウェブ上では、12インチ大の絵(円盤)と8秒間のループ音源のランダムな組み合わせが楽しめる。 http://intoinfinity.org/
─つまり、著作権を一部解放するということですね。
日本の場合は円盤のアーティストも音楽家も、ようやく自分の問題として著作権を考えられるようになった気がします。dublabを知っている人はもちろん、知らない人も興味を持って作品を提供してもらえることが多かったですね。僕は、ビジュアルのアーティストの知り合いは少なかったので、音楽家や知人に紹介してもらって、東京にいる人とはなるべく会って説明して円盤を渡しました。そこで、僕が今まで勝手にイメージしていたアーティストとギャラリーのパトロン的な関係ではなく、もっと面白いことをやろうとしている人たちが結構いて、彼らに横の繋がりがあることも知りました。
─dublabとの交流のきっかけは?
dublab創立当時の99年頃、メンバーのフロスティと、始めの頃から関わっているノーバディが東京に遊びにきたんです。たまたま会う機会があって話したら、彼らは僕がその当時リリースしていた音源を聴いていて、日本の音楽シーンにとても詳しかったんです。そして2年前に、友人で仕事のパートナーでもあるバルーチャ・ハシムのコーディネイトで、雑誌の取材でLAに行った際にdublabの取材を通して密にやりとりをして、それから付き合いが深まりましたね。
─LAと日本、クリエイター側に意識の差はあるのでしょうか。
アーティストや音楽家の創作に関する考え方に変わりはないと思います。ただ、周りの状況を含め、いい意味でのコミュニティを大切にする意識や、サポートし合う姿勢などが、日本というか東京とは違うなと思いましたね。LAはアメリカ社会なので個人主義が発達して、みんなやりたいようにやっているのですが、2006年にタワーレコードの実店舗を閉鎖するなど、日本より早い段階でCD発売をやめてアナログ盤とダウンロードのみという極端な状況になりました。音楽が売れないことをふまえ、みんなどうやって自分たちの音楽をリスナーに伝えるのかということに意識的で、ネットを活用し、お互いに作品を紹介し合うという姿勢が根付いています。
─「into infinity」東京と札幌でイベントを終えての感想は?
今回のイベントで発見したのは、東京に比べて札幌のほうが自由な感じがしたこと。もちろん東京でも自分たちでパーティなどを主催するようになってきたのですが、場所の制限を始めいろいろな問題があります。それに比べると、僕自身はその場に出向けなかったのですが札幌のほうが自由にイベントを企画できて羨ましいですね。ここ数年、地方のほうがむしろLAに近い。クリエイター同士の横の繋がりを感じます。
─なぜ地方のほうが自由な感じがするのでしょう?
東京がすごく都会だからじゃないですか? LAは田舎ですよ。僕はずっと東京なので、東京の良さは分かります。クールなところとか都会的で粋なところとか。だからこそ90年代以前は東京の良さを表現するのが有効だったと思います。今、東京やNYは、他のジャンルは分からないけれど、音楽ではあまりパワーがない。現代はある種のコミュニティの力、ローカリティの力が創作に影響してくるので、それが希薄な大都市だとなかなか難しい。ポジティブな表現が出づらいような気がしますね。
─札幌ではどのくらい人が集りましたか?
東京の「Super Deluxe」では300人以上集って盛況だったのですが、今回、札幌の現場をコーディネイトをしたYormaの石川大峰さんによるとススキノのど真ん中にある空きビルで開催した札幌では、約400人集まったそうです。東京はたくさんイベントがあるので人が分散してしまうという理由もあると思います。でも東京だと、おそらく空きビルではやらせてくれないでしょうね(笑)。札幌市は昨年CCの世界会議が行われた縁もあり、札幌市がサポートしてくれたことも大きかったと思います。今回札幌でイベントをやって、クリエイターと地方行政との関係にも興味を持ちました。
─かつては東京に何でも集約していましたが、時代が変わってきたように思います。
本当にそう感じます。例えば東京でレコード店に関わっていた人たちが地方に戻って、自分たちで面白いことを始める例なども増えてきたのではないでしょうか。以前は東京に居続けたい人も多かったけれど、今は地方のほうが面白いことができると気づいたのかもしれません。どちらにしても、東京よりも札幌に人が集まった事実は象徴的です。
ライブ・イベント「into infinity」東京は、12月4日に六本木Super Deluxにて開催された。写真はDaedelus(デイデラス)のライブの様子。(c)Ryosuke Kikuchi
会場にはTEEBSによるライブペインティングも飾られていた(28日にLook Galleryで描かれたもの)。(c)Ryosuke Kikuchi
これからは音楽とアートのコラボレーションが自然
─来年はどんなことを企画されているのでしょうか。
今回の「info infinity」を発展させたものをdublabと一緒に企画しています。音楽とアートのコラボレーションは、これからは自然なことだと思うんです。本にも書きましたが、音楽はひとりで聴くものから、パーティ会場でみんなと聴くものに変わってきています。そうすると、音が流れていて映像があるのが自然なんです。単純に音楽ビデオを流すのではなく、音も映像もランダムに流れていくものなら何回見ても飽きません。場所についても、地方にもギャラリー的な面白いところが増えています。それに、今回東京会場に使った「Look Gallery」(中野)と「Mado Lounge」(六本木)では、地域の文化も違うし、来ている人も重ならないので、東京のローカル文化を反映させたやり方も考えられます。東京都は協力的じゃないけれど、区によって協力的なところはあるかもしれませんし。
─iPhoneの無料アプリAudioVisual Mixer for Into Infinityも人気です。円盤と音が次々に現れて、「into infinity」の提案がよくわかりますね。
iPhoneのアプリでは、ペアリングしてある円盤と音がランダムにあがってきます。容量の問題でウェブサイトの半分ほどの量ですが、今後更新時に中身を変えていく予定もあります。例えば、ラジオみたいに流しっぱなしで楽しむこともできるし、自分で円盤と音の組み合わせを変えたり、お気に入りをそのままツィッターに投稿することもできます。
無料のiPhone用アプリ「AudioVisual Mixer for Into Infinity」
原雅明氏(c) Shinpei Takashima
─最後に、原さんが考える今後の音楽のあり方とは?
新しい音楽はこれからも出てくるし、出てきてほしいと思いますが、もっと過去の音楽をポジティブな意味で自然に使えればと思います。今までは「パクリ」などネガティブな意味で捉えられることもあったけれど、それによって昔の音楽を聴く機会ができるし、現実にそうなってきています。音楽を作る側の意識はすでに変わっているので、紹介する側やインフラ側の意識がもう少し変わってほしいですね。といっても、新譜を売ることを第一にしてきた業界なのですぐには難しいと思います。しかし、今のままだとみんなが苦しい。先がない。楽しめない。だから、ようやくこれからのことを考え始めたところなんです。
─日本の音楽シーンも10年後はLAのようになりますか?
LAだけが先をいっているとは限らないし、日本は独自のやり方で成長するかもしれません。日本人はパッケージが好きなんですよね。アメリカのレーベルなどでは、本国ではダウンロードのみで、日本で発売した紙ジャケCDが逆輸入されることもあります。もしかしたら特殊なパッケージのCDは「日本発」のスタイルで残っていくかもしれませんね。それから、日本人は齢をとると新しい音楽を聴かなくなりますよ。LAを始め海外では、新しい音楽を聴く年配の人も多いし、パーティに行けば年齢層が高い人もいます。日本は新しい音楽は若者中心という風潮があるけれど、もっと幅広い年齢層に新しい音楽を聴いてほしいですね。
─若い音楽ファンへのメッセージをお願いします。
今、若い人はいろいろな音楽に触れる機会が減っていると思います。昔はラジオから知らない音楽が耳に入ってくるとか、偶然音楽に出会う機会がありました。今はCDショップに行っても売れ筋の盤ばかりですよね。昔はジャケ買いして「失敗した!」という経験があったけれど、今はありえない。みんなある程度情報を持って音楽を購入しますから。 多分、いろいろな音楽を聴いたほうが将来いいことがあると思います。きっと、何かのときに音楽が助けてくれると思いますよ。
原雅明
Masaaki Hara

音楽ライター、編集者、レーベル、disques corde主宰として幅広く活躍。ヒップホップ、エレクトロからジャズまで、フラットかつ独自の視点でとらえる音楽評で、リスナーのみならず多くのクリエイターからも厚い信頼を得る。「GROOVE」「ミュージック・マガジン」「スタジオボイス」をはじめ各誌に寄稿されたインタビューやライナーのほか、変革期を迎える音楽シーンについての書き下ろしを収録した著書「音楽から解き放たれるために——21世紀のサウンド・リサイクル」をフィルムアート社より刊行。そのほか海外勢を招いたイベント企画も積極的に行っており、最近ではイベントとウェブ、音楽とアートを縦断するコラボレーション・プロジェクトInto Infintyを成功させたばかり。


Into Infinity
http://intoinfinity.org/


disques corde
http://www.corde.co.jp/



「音楽から解き放たれるために——21世紀のサウンド・リサイクル」


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